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「だからさぁ、お笑いだよ。漫才とか見たことない?テレビとかで」
「そりゃあ、あるけど…」
「それをやろうって言ってるの!私と」
「……………は?」
再び聞き返しても、全く彼女の真意が見えない。本気で言っているんだろうか。
「知ってる?お笑いって、ギャップがあればあるほど面白いんだよ。ハイテンションの私と、ローテンションの宮門君が組むと、そのギャップがガッツリ生きて、面白い漫才ができると思うんだよねぇ」
「……………はぁ」
「私、小学校の高学年くらいからお笑いにはまっててね、いつか自分でもやりたいと思ってるんだぁ。演劇部入ったのも、発声練習とかがお笑いに生かせると思ったからで」
「……………はぁ」
「もうすぐ文化祭があるじゃん?体育館で誰でも出場できるテーマフリーの発表会があるから、そこにエントリーしたいの!」
「……………はぁ」
「だから、組もう!」
福田の発する言葉の一つ一つに、おれはいちいち口をあんぐり開けるしかできない。
彼女の言っていること全てが、突拍子もなく訳が分からない。
しかし、無邪気にお笑いについて話す彼女は、冗談を言っているようには見えないのも事実だ。
「………えっと、まずさ、本気?」
「へ?これだけ迫って、ウソに見える?」
「いや、おれにそんなこと言う人がいるとは思えなかったからさ」
「あー。まぁ言ってることは普通じゃないことは分かってるよ。でも、回りくどく言っても仕方ないからねぇ。単刀直入に私の想いをぶつけてみた」
福田は腕を組んで、自慢げにふん!と鼻を鳴らす。
「でも、悪い。おれにお笑いなんて無理だよ。そういうので笑ったことないし、まして人を笑わせるなんて…」
「へ?宮門君が笑う必要ないよ?周りが笑ってくれれば、自然に自分も笑えるもんだよ」
「…は?」
福田は心底不思議そうな顔をするが、不思議なのはおれの方だ。
「まぁ、いきなり決めてなんて言わないよ。でも考えておいて。じゃね!遅れないようにね」
福田はそれだけ言うと踵を返し、短い髪を揺らしながら教室に走っていく。
おれはしばらくその後ろ姿を茫然と眺めていた。
おれが…お笑い…?人から冷たいとばかり言われるおれが、人を笑わすことなんて…
おれは、今起きたことが受け入れられないまま、ふらふらと教室へ向かった。
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