2人が本棚に入れています
本棚に追加
そうこうしているうちに、解剖する器具が配られ、あちこちで悲鳴が上がり始める。各ペアごとに解剖が始められたようだ。
トレイに載った器具がおれに回ってくると、これまた無言で福田へトス。
「いや、ほんとにやらないんかい。それでも男子?本当はついてないんじゃないの?」
福田は顔に似合わず下ネタまで網羅しているようだ。
「ああ、実はついてない。だからよろしく。」
「ウッソ!?オカマなの?」
「マジ」
「…確認するよ?」
「やめて。ついてる」
「いや、分かってるから!」
目の前で、盛大に吹き出す声が聞こえた。さっきの女子が、おれたちの会話を聞いていて笑ったようだ。
「何かあった?」
今度はおれがその女子に尋ねた。
「いや…ごめんね。フクが変な質問してるのに、宮門君が無表情で面白いこと言ってるから、我慢できなくて」
「質問ていうか、突っ込みね、私の場合」
福田がなぜか胸を張る。
しかし何だろう、この自分の中に発生した、明るい感情は。
自分の言動で笑ってくれる人がいた。それだけなのに、まるでスキップでも始めてしまいそうな、心が軽くなっている自分がいる。
そして、そんな自分の出現にとまどっている自分もいる。
「お、今はなぜか動揺してるね?」
福田がおれの表情覗き込んでいる。おれの感情の変化を、機敏に察しているようだ。
「私が宮門君とお笑いやりたいって言った意味、分かった?宮門君のその冷たさと無表情が、人を笑わすための武器になるんだよ」
冷たさが、武器になる?
これがお笑いの力か…悪くない、な…
最初のコメントを投稿しよう!