《序章》揺れる心

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《序章》揺れる心

※作品をお読みになる前に一読ください。 この作品中にはアナルプレイや拘束、打撃といった少々荒っぽい行為が登場します。そういったものが苦手な方は閲覧をご遠慮ください。 また上記の件についてのご意見は一切お受けいたしませんので、ご了承ください。  淡い光で照らされた部屋には、打擲音(ちょうちゃくおん)が不規則に響いている。その音は、悠然とソファに腰掛けている男が発している音だ。細長い(ケイン)で自らの手のひらを打つ姿は、厳格な教師のように見える。白いガウン姿の男は、部屋の真ん中に置かれているベッドの上で四つん這いになっている女に鋭いまなざしを向けていた。  女は素っ裸だった。黒いレースのリボンを首に巻いているけれど、それ以外は何も身につけていなかった。しかも目隠しをされている。薄明かりに浮かぶほの白い肢体は小刻みに震えていた。それに腰もわずかに揺らめいている。突き上げられている丸い尻が淫らな動きをするたびに、女の唇からは湿り気を帯びた吐息が漏れていた。  紗瑛(さえ)は耐え続けていた。体をこわばらせると、当然のことながら差し込まれているものを締め付けることになる。細かな振動にあわせて下腹の奥からさらなる快楽が襲いかかってくるけれど、そうしないと体の震えを止められないのだ。  わずかでも体が動いてしまったら、乳房の先端に付けられているクリップに付いたベルが鳴るようになっている。それが鳴らないよう手足を踏ん張らせ続けていたのけれど何事にも限界がある。すっかり潤みきった花芯(かしん)からあふれ出たものが、ふっくらと盛り上がった花弁を濡らし秘裂に沿ってしたたり落ちていく。その途中にある突起した(さや)にたどり着いたとたん、そこから痺れるような快感が走り、紗瑛は耐えきれず声を漏らす。 「んっ!」  しまったと思ったときにはもう、ひゅんと風を切る音がした。杖の先が肌を打つ音とともに焼け付くような痛みが腿裏に走った。 「ああ……っ!」  紗瑛は鋭い痛みに耐えきれず、海老反りに背をしならせて悲鳴を漏らす。それまで体を支えていた腕と脚から力が抜けてしまい、彼女はベッドに倒れ込んだ。すると、それまで彼女を眺めていた男は、あきれたようなため息を吐き出した。杖を手にしたまま立ち上がり、ベッドへ向かい歩き出す。  気配とともにカーペットを踏みしめる音が近づいていることに気づき、紗瑛は慌てて四つん這いになろうとした。だがそれより早く、顎を杖の先端で持ち上げられてしまい、全身が一瞬でこわばった。 「音を立てるなと言ったはずだ」  聞こえてきた声は、いつもより低い声だった。紗瑛は震える声で返事する。 「も、申し訳ございません。で、でも……」  言い終える前に杖が顎から離れた。その直後、先ほどと同じところに激痛が走り、紗瑛は声を詰まらせる。 「う……っ」  紗瑛が顔をしかめさせると、男は彼女の細い顎を掴んで持ち上げた。 「求められたことにだけ応じろと言ったはずだ、違うか?」  冷たい声で尋ねられ、紗瑛は息をのむ。 「返事は?」 「は、はい。浩輔(こうすけ)さん」 「分かっているならいい。さて、そろそろ日付が変わるな……」  それまでの厳しい口調がとたんに和らいだ。唇に温かいものが触れる。紗瑛は唇に触れたものを口に含んだ。男の親指だ。  キスに応えるように、濡れた指先がふっくらした唇を優しく撫でる。その感触に体が勝手に震えた。 「わたしを喜ばせろ」  尊大に言い放ったあと、男は杖をベッドの上に放り投げ、紗瑛の視界を奪っているものを取り払った。  それまで視界を遮っていたものを外されて、紗瑛はすぐさま男に目を向ける。彼は着ているガウンを脱いでいた。見事に引き締まった体が薄闇にあらわれる。視線を感じ、顔を上げたら男と目が合った。男の目は熱っぽかった。  恋愛感情などないことは分かっているけれど、そのような目を向けられると、なにもかもぐずぐずと溶けていく。紗瑛は男の体の中心にあるものに顔を寄せた。それは、猛々しくいきり立っている。両手で包み込むと、それはとても熱かった。  触れた手のひらから脈が伝ってくる。なめらかな皮膚を痛めぬよう、細心の注意を払いながらしごき出すと、頭上から切なげな声がした。触れているものがわずかに硬さを増しただけでなく、ぐんと太くなる。目線だけ上げてみたら視線がぶつかった。 「キス、しろ。深く」  男は息を荒くさせながら命じた。熱っぽい目で見下ろす彼の姿を目にしたとたん、下腹の奥がじわりと熱を帯びる。すっかり嗅ぎ慣れてしまった男の匂いが、淫らな気分に拍車をかけた。紗瑛は両手で彼のものをしごきながら先端を口に含み、喉奥まで迎え入れる。 「う……」  舌で包み込んだら、肉塊がびくんと跳ねた。頭を撫でる手の動きが止まる。 「んっ……」  緩やかに怒張を押し込まれ、紗瑛は声を漏らす。舌を動かすと苦みが広がった。唇をすぼめて頭を動かしたら、頭上から聞こえてくる息づかいが荒くなった。  切羽詰まった息に混じってうめき声が聞こえてきた。唾液を出すだけ出して口淫し続けていると、すっかり硬さが増したものを突然引き抜かれる。 「限界だ。いれるぞ」  男はそう言うなり、ベッドに上がって紗瑛を引き寄せた。唾液にまみれた怒張は、引き締まった腹にくっつきそうなほど、そそり立っている。 「広げろ。紗瑛」  紗瑛はベッドにうつ伏せになり、腰を高く上げた。両手で尻たぶを掴み、言われたとおりに広げてみせると、秘めやかなところに視線を感じた。それは、黒いサテンのリボンで目隠しをされていたときよりも鋭く感じてならなかった。  男は、向けられている白い尻を見下ろしていた。彼の視線の先では、ぬらぬらと蜜で濡れるところに差し込まれたバイブがいまだ振動を続けている。彼はほくそ笑みながらそれに手を伸ばし、小刻みに抜き差しをし始めた。  紗瑛は、奥歯を噛みしめて声を漏らさないよう耐えたけれど、聞くに堪えない音を立てられながら責められ続けているうちに、無情にも絶頂の気配が徐々に迫ってきた。  両脚がガクガク震え出す。下腹の奥が切なく疼いた。このままでは男が許してくれる前に果ててしまう。危機感にも似たものを抱きながら耐え続けていると、それまで自分を苛んでいたものが突然引き抜かれた。 「あっ!」  思わず声を漏らしてしまった次の瞬間、じくじく疼くところに熱いものを差し込まれた。 「う……っ」  ずんと衝撃が走り、声が詰まる。紗瑛は切なげに顔を歪めた。  花芯の奥深いところが切なく疼き、馴染んだものをやわやと締め付ける。男のものを包み込んだところから、快感がじわじわと伝ってきた。  彼のサディスティックな欲望を満たしたあとのセックスはとても激しい。獣と化した男に、荒々しく突かれまくるだけだけど、一度欲望を吐き出したあとのセックスは違う。一変してとても甘く優しいものだから、身も心も蕩かされてしまうのだ。  この三年、そんな逢瀬を繰り返したけれど、もう限界だ。いつかはこんな日が来ると覚悟していたし、そのときが来たからには潔く身を引こう。激しく突かれながら、紗瑛はそう思った。
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