第三話 怪我の功名

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 2つ目のベッドの真相は分からずじまいだった。お互い何かを隠したままの歯切れの悪い会話が終わり、二人で食事の席についた。めぐるは気まずくちらちらと観察してしまう。何度もそのようなことを繰り返していたため、とうとう庸治と目が合ってしまう。 「口に合わなかったか?」 「い、いえ」 「……悪いな。俺もまだ緊張してるみたいだ。この部屋でまさか誰かと飯食う日が来るとは思わなくて」 「いえ。むしろここまでしてもらったのに、話題提供ができなくてすみません」 「気にすんな」 「洗い物は俺がします」 「頼む。その間、自分の部屋にいてもいいか。仕事が残っているんだ。捜査に関することだから、どうしてもこれだけは独りの空間でしたいんだ」 「もちろんです!」  会社員ではなく、刑事だと知って、初めて実感する庸治の仕事ぶり。めぐるは、それすらかっこいいと思ってしまう。 「洗い物終わったら、風呂沸かしてくれてもいいし、シャワーで済ませてくれてもいい。好きに過ごせ」  先に食事を終えた庸治。しかし、めぐるが食べ終わるまではそこにいて、一緒に食器をかたづけてから「あと頼んだ」と言って、自室へと行ってしまった。めぐるは、スポンジに泡を立て食器を洗い始める。庸治の皿は、とても綺麗だ。彼の性格がここでも伺える。 「彼女いないのかな」  几帳面でしっかりした刑事なら女性の影がちらついてもおかしくない。仮に、いなくても、ゲイの自分が入り込む隙がないと分かっていてる。しかさ、筋肉から始まった恋は熱くなるばかりだった。  めぐるに食器洗いを任せた庸治は自室に行くと、デスクでパソコンを開いた。。自分なりにまとめた事件の推理データを開き、じっと見つめる。 「組織的な犯罪だとして、まだ逮捕には証拠が不十分だ。しっぽ掴む前に、また犯行が繰り返されるか……」  先ほどのめぐるの反応を思い出す。 「あいつ何か覚えてるんじゃないのか。それとも、あの事件のことを忘れようとしているのか」  唸りながら考える庸治。トイレに行きたくなるまで、腕を組んで考えていた。席をたち、トイレに向かう。同居など家族以外としたことのない男は、いつものように確認もせず、トイレのドアを開けた。むわっと雄の匂いに包まれる。ハッと顔をあげると、めぐるが、真っ赤な顔で振り向いた。下半身は露出したまま立っている。男の排尿として問題ないスタイルだが、独特な臭いで、彼のプライベートな時間を邪魔したと瞬時に理解し、ドアを閉めた。 「わ、悪い! いつもの癖で確認せずに開けちまった!」  返事はない。 「……ご、ごゆっくり」  こうドア越しに伝えるしかなく、庸治は申しわけなさでいっぱいになりながら部屋に戻った。しばらくしてドアがノックされる。 「どうぞ」  めぐるが顔を少しだけ隙間からのぞかせる。 「すみませんでした」 「若いんだから気にすんな。俺のほうこそ悪かった」 「……ちゃんと掃除したので、もう大丈夫と思います」  そういってドアが静かに閉められた。忘れていた尿意を思い出し、トイレに行くとトイレ掃除の薬液の爽やかな香りが充満していた。  その日は仕事に身が入らず、庸治は、シャワーを浴びて就寝した。  翌日、お互い平常心を保って顔を合わせる。日勤のこの日は一緒に家を出て、各々職場へ向かった。めぐるは、欲に負けて抜いてしまった自分を責めるように筋トレに励んだ。帰宅しても、自分のできる家事は限られ、昨日のこともあり、さらにジムで汗を流すことにする。庸治から「でかけてんのか?」とメッセージが来ていて慌てて帰宅した。ロッカーで着替えている途中に電話が鳴る。相手は庸治だった。 『大丈夫か?』 「今、ジムにいて。今から帰ります!」 『ジムって、あのいつもの?』 「はい」 『車か?』 「そうですけど」 『分かった。気をつけて帰って来いよ』  過保護だなと思いながら電話を切る。
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