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第六話 追いつめる
めぐるは久しぶりに独りで外に出た。周りを見渡しても警察官の姿はどこにもない。しかし、スマホには庸治から「ちゃんと見てるから安心しろ」とメッセージが入っていた。
一度深呼吸をして足を踏み出す。警察からは最初に職場である河島消防署へより河川敷のような開けた場所や公園のような見晴らしのいい場所を歩き、まずは遠藤がめぐるを見つけることができるようにと指示されていた。数日はかかるだろうと思われている作戦。夜は、庸治の家ではなく、警察が用意した新しい賃貸へ帰るよう言われている。寝込みを襲われる危険性、町中のどこかで火災が起こる危険性を孕んだこの作戦は最終手段。
めぐるが河島消防署を目の前にしたとき、庸治から着信が入る。
「もしもし? 今着きました」
『ああ。ちゃんと見てる。いいかめぐる。黙って聞け。反応もなしだ。表情に気をつけろ。今、近くに遠藤がいる』
めぐるは、確認しようと思わず顔を上げてしまう。道路を挟んだ向かい側はスーパーで、人がたくさん出入りしている。
『キョロキョロするな。ばれるぞ』
「は、はい」
『いったん、消防署の中に入れ。こっちが連絡するまでは外に出るな』
めぐるは、職場に電話を切ると、そのまま消防署の中へ入った。
*
消防署が見える位置のビルとビルの間で、庸治と向井田は双眼鏡を使い、様子を伺っていた。無線からは『スーパーの中に遠藤と思われる男が入っていった』と一報が入っていた。捜査員が数名、スーパーに入っていく。
「ここで捕まってくれるとありがたいんだけどな」
庸治は双眼鏡を覗き、消防署を見る。二回のカーテンが揺れ、誰かがこっそり外を見てい。
「ったく、あいつは」
大きな溜息を一つ吐き、庸治は双眼鏡をスーパーへ向けた。老人や主婦、業者など多くの人が出入りし、自動ドアは常に開いている。長い黒髪の女性が、重たそうに緑色のトートバッグを下げて出てきたところで、無線が入り、庸治は双眼鏡を向井田に渡した。
『今、中を捜索している。出入り口には捜査員を配置した。今のうちに平嶋めぐるを消防署から出せ。スーパーとは反対側に裏口があるそうだ。そこから河川敷の方へ向かわせてくれ』
庸治は、めぐるに連絡をする。カーテンが再び揺れ、きちんと閉められる。
「達川刑事、俺たちは待機ですか? 遠藤の確保係ですよね?」
「ああ。でもあくまでめぐるに近づいた遠藤の確保だ。スーパーは、スーパーで別の刑事がはってる。大所帯で行くと気づかれるだろ。よし、めぐるを追うぞ」
「了解です」
向井田とその場を後にしようとした瞬間、無線から激しい声が聞こえる。
『達川!』
庸治は、イヤホンをぐっと耳にあてた。
「対象に動きありですか?」
『今、スーパーの防犯カメラを確認した。遠藤はトイレにいる』
「俺たちもそちらへ合流ですか?」
『違う。消防署へ向かってくれ』
「?」
庸治は言われるがまま、向井田と河島消防署へ向かう。
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