最期のひとこと

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強く握りしめたその手から伝わる振動が強くなる。 「伊織の両親に認められようと必死で働いたよ。昼も夜もなく…必死だった」 「伊織が家出して来ているのを知らずに働いていた。何日も泊まり込みで仕事をしていて、仕事の合間に家に戻るとベランダの窓は開けられたままだった」 「ベランダを見ると伊織が倒れていた。何かに躓いて倒れた時に頭を強く打ったことで気を失ったようだった」 「伊織の身体の半分くらいを雪が覆ってた」 「すぐに救急車を呼んだ。でも雪の中に何時間も放置された伊織は肺炎を起こし、それが原因で翌朝息を引き取った」 「ごめん…ごめんって何日も泣いた。僕は一度に妻と娘を失って…葬儀に出ることも許されなかった」 「これが僕の初恋だったんだ」 「この後、死のうとしていた時にママに出会った。伊織が生き返ったって思ったよ」
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