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健介さんが言っていることが
すぐには理解できなかった。
「あの…わたしが?」
「そう…君が、君のことが心配なんだ。純粋過ぎるから。ちょっとしたことですぐに傷がついてしまう君をほっとけないんだ」
「同情?…ですか?」
「違う!そんなんじゃない」
「だったら…」
健介さんは少し言葉を探す様な顔で
「『伊織』って名前覚えてる?」
って聞いてきた。
「…」
「あの日…笹井さんがホテルの部屋でアタシを呼びとめた時?」
「そう。伊織は去年亡くなった僕の妻の名前」
「初めてあのキャバクラの入口の写真で君を見た時…しばらく僕はその場に釘付けになった」
ーー伊織…?
「伊織が生き返った気がした。だから…不純な理由かも知れないけど、それでも君に会いたいと思う気持ちを抑えることができなかった」
アタシは余りの突然の話にただ健介さんの話を聞くことしかできなかった。
「一年前、僕は病気の伊織を一人残して、急な仕事に駆り出されて出た」
「夜中に家に戻ると妻はベランダで好きなコーヒーを飲んでいたのだろう。テーブルには冷めたカップが残されてて、ベランダの椅子に座ったまま、雪が降り積もるベランダで眠る様に息を引き取っていた」
ーー伊織ーーっ!伊織!
ーーごめん…ごめん…
ーーごめん…目を開けて…
ーーごめん…伊織…
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