失踪

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サイドボードの一番奥にはパパとの結婚写真。 結婚式は挙げることはなかった。 ただ思い出にと札幌の式場で 写真だけは撮った。 ーーパパの提案で… でもそれはパパがしたかったのもあるかもしれないけど、何よりもひとえにわたしの為。 そう思っていた。 その写真がまたアタシを 別の世界へお導いていく。 最近まではほとんど思い出すこともなかったのに。 毎日が慌ただしく ただ同じ歯車の上を クルクルと回っていただけだったからなのだろう。 何一つ変わることのない 退屈な毎日に麻痺して 幸せであることに気づかない人間になっていた。 それなのに、 桃が17年ぶりにアタシの前に現れて 歯車が噛み合わなくなったのかもしれない。 ーーアタシみたいな女で… ーーいいんですか? ーー僕の方こそ…こんなおじさんで ーーいいに決まってます。 ーーアタシみたいな女… ーー君こそ…幸せになるべきだよ。 ーー君と桃子ちゃんがいてくれるだけで僕は幸せだから。 ーー死にかけた人生にまたやり直すきっかけを ーーくれた君と桃子ちゃんだから… そんな昔のことを考えているとリビングのドアが開く音で我に帰る。
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