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夏実ちゃんの姿に胸が締め付けられ呼吸さえできないほどの衝撃が俺を襲った。
厚化粧をしてタバコを吸う彼女を
思い切り抱きしめたかった。
壊れる程、強く…。
俺もタバコを吸えば
少しは彼女に近づけると思った。
すると彼女は俺を睨み
タバコを感情もろとも投げつけるように放ると
その年最初の雪の中に消えて行ってしまった。
悲しかった。
夏実ちゃんを守れない自分の非力さに
彼女を失った心には
大きな、どんな医者でも縫い合わせることが出来ない大きな穴が開いた。
あの時、どうして俺は彼女を追いかけて
抱きしめなかったのだろうと
何年も後悔する日々が始まった。
失うまで気づけない男を
最初の粉雪が覆い尽くすまで
その場から動くことすらできなかった。
今度、君に会えたらしっかりと抱きしめ離さない。自分のわがままだと分かってる。
それなのに…
君に会いたい。
なぜあの時、君を抱きしめなかった?
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