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Ⅰ アリス・イン・アナザーワールド
おはようございます。……誰に言ってるんだろ。
んん……体が痛いし髪が邪魔なんだけど。というか、現実でこんなに伸ばしてたっけ? でもなぁ、ゲームで寝たらログアウトしてるはずだし……
「二度寝しよ……」
「なんでこの状況で寝れるのよ!? お願いだから起きてっ!」
起きた。これは完全に起きた。
「……え、フィリス? ここどこ?」
ガバッと飛び起きて360度見渡してみる。
まず、左手に見えますのは……騎士、ですね。ええ。鎧と剣は統一され、かっこいい感じになってます。
次に右手をご覧下さい。ローブと杖で統一された、魔導師とかそういうあれでしょう。若い女性しか居ないのは何故でしょうか。
最後に正面をご覧下さい。
第一印象は、お姫様かな? です。髪は黄金色で二の腕辺りまで伸びていますね。瞳は吸い込まれそうな紅色。柔和な顔立ちで優しそうな美少女。服はドレスに見えるけど、一部に金属が使われてるし、防具なのかな?
……メニューが出ないんだけど!?
「異世界、と言われたわ」
「あはは、ご冗談を。だってほら、フィリスも私もゲームのキャラだよ? フィリスならまだ有り得るけど、私は全く見た目が違うし……」
「私も無いとは思うけど……」
話している内に不安になった私達は、申し訳なさそうな顔をしているお姫様(仮)に視線を向ける。
こっちまで不安になるからそんな顔しないで欲しいなぁ。
「えっと……ここはどこ?」
「……ここは、フェアレイン女王国。私はこの国の王女、エルティナと申します」
王女。本当にお姫様だったし。
というか、フェアレイン女王国って何?
「あ、私は……」
えー、どっちを名乗れば……本当に異世界だったら、この名前でずっと過ごさないといけないんだよね? うーん……
「アリス・ファンシアです」
「フィリス・ミレディオーネ……で合ってるわよね?」
「合ってるね」
ゲーム中に下の名字は使わないから、比較的忘れやすいっていう。しかも、フィリスの名字って覚えにくいじゃん?
げど、ちょっとかっこいいかも……!
「――貴様らっ、その態度は何だ!!」
突然現れた騎士さんが目の前で剣を振りかぶって――
「ひっ!?」
「クイックチェンジ、ニャンクローッ!」
衝突した剣と猫の手。
私が腕を振り抜くと、騎士の剣がポッキリ折れた。ニャンクローver9.99(猫の手を模した愛用武器)の特殊効果、武器破壊が発動したみたい。弱点部分に当てると確率で発動する効果なんだけど、偶然いい具合に出来て良かったぁ。
「び、びっくりした……」
「総員、放てっ!」
「「ええっ!?」」
火とか氷とか石とか、色々飛んできてるぅ!? 不味い不味い不味いっ……! 後衛のフィリスは守らないと!
「あぐッ……!?」
痛い、痛いっ、めちゃくちゃ痛い!
これがゲームじゃないってホントなんだ。腕とか足の骨が折れてる気がする。ゲームの時ならステータスの補正で平気だったのに、今はガッツリ折れてるよ。
「やめなさいッッ!! 」
エルティナ王女の声と共に、岩を砕くような破壊音が鳴り響いた。攻撃も止んだ……かな?
「あなた達は何をしているのですかッ!?」
「で、ですが、その娘が騎士団長に攻撃を……」
「先に仕掛けたのはその騎士団長ですっ! 動きが見えなくとも、状況を見れば明らかでしょう!?」
ああ、なに? あの騎士さんが攻撃して来るところを見えてなかったってこと? で、剣が折られてたから私が攻撃したって? ……うそん。
「アリスっ、これ飲んでっ!」
そう言うなり、口に突っ込まれた小瓶。
あ、ポーションだ……凄い効き目。もう治った。
「ありがとう……今のは死ぬかと思ったよ」
「ご、ごめんなさい。アリスだけなら避けられたのに、私が居たから……」
「ううん。大事なパートナーなんだから、そんなこと言っちゃダメだよ」
ぎゅっとされたから、フィリスの服に血がついてる。
服に魔法防御があるから平気って思ってたんだけど、石と氷は消えるまでにタイムラグがあって怪我しちゃった。
服を貫通するんじゃなくて、衝撃だけ伝わった感じ? 服が無い部分は刺さってたけどね!
「って何この惨状!?」
「え? ……な、何なのこれ」
エルティナ王女の足元が陥没してて、その周りも罅が入ってる。何したの? さっきの破壊音ってそれ?
「アリス様っ、今治療しま……あ、あの、お怪我は……?」
「あ、ポーションで治したから大丈夫」
「ぽーしょん……?」
うん、これは分かってない。
「回復薬って言えば分かる?」
「えっ、回復薬をお使いに!? も、申し訳ありません! 後ほど弁償――いえ、上乗せしてお支払い致しますっ!」
「?」
なんでそんな大慌てしてるの?
この世界だと高価な物だったりするとか? 上乗せはまあ、こんな事になったからだと思う。
「王女様、助けて頂いてありがとうございます。……ですが、あの人達に謝って貰わないと気が済みません。勿論、謝るのはアリスにですから」
「こ、こんな小娘に謝るなど……」
「むしろ、誤解を招くような行動したその娘が……」
えー、それはちょっとどうかと思うよ?
「ふざけないでよッ! アリスが大怪我したのも、王女様が私達に頭を下げたのも、あなた達のせいだって分からないわけっ!?」
「フィリス、どうどう……」
「でもっ、アリスに怪我を負わせた上にあんなふざけたことばっかり」
「大丈夫、私は気にしてないから」
フィリスが怒ってくれただけで十分。
それに、あの感じだと心のこもった謝罪は聞けなさそうだもん。気にするだけ無駄というか、王女様は謝ってくれたんだし。
「あの者達に代わって私が謝罪致します。申し訳ありませんでした、アリス様、フィリス様……」
「ホントに大丈夫だってば!」
「わ、私は怪我もしてませんし……」
こうして、私たちは最悪の始まりを迎えた。
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