いざ美容室へ

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いざ美容室へ

 予約日当日。  いくら職場から近いとはいえ、職場から徒歩で20分以上はかかる距離だった。しかし、仕事終わりにすぐ向かったとしても、予約時間には余裕で間に合ってしまう。道すがら、腹を満たしてからのんびり向かうことに。  予約時間の10分前くらいを見計らってサロンに到着。ガラス張りの入り口で、思った以上にお洒落な店舗で、二度見した。内装のシンプルさとダーク寄りな色遣いを見るに、どちらかと言うとメンズ向けのようだ。外壁には例の赤と青のねじり棒が掲げられている。入り口そばのカウンターにひとり、明るい茶髪の若い男がうつむいて携帯をいじっていた。俺が入り口を開けて入ると彼はすっくと背筋を伸ばし、お辞儀をする。見渡すとフロアは狭く、鏡前の椅子とシャンプー台がそれぞれ1台ずつあるだけだ。他のスタッフらしき人は特に見当たらない。どうやら、彼が担当のようだ。 「田中です、よろしくおねがいします」  美容師よろしく、爽やかな笑顔で挨拶する田中くん。俺も思わず営業スマイルで「こちらこそ、よろしくおねがいします」と返す。  鏡前の席に座り、田中くんが操作するタブレットのヘアカタログ画像を見ながら、髪型のイメージを相談する。その間にふと、鏡の脇にある階段から足音が響いた。  第六感が騒ぐような感覚がした。  階段を降りてきたのは、長身で黒髪の男。ふと目が合うと、男は軽く微笑んで会釈し、そのまま俺と田中くんの脇を通過する。匂いとか特に何もしなかったが、目が合った瞬間に俺は本能的に察知した。  この男、アルファだと。
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