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シャンプー、その後
「では、シャンプーから始めますね!」
俺は田中くんに促され、後ろのシャンプー台へと移動し、座る。
「それでは倒しますねー」
背もたれを倒され、首のプロテクターの辺りにタオルを巻かれ、顔の上に白く薄い不織布が乗せられ、ブランケットをかけられる。
やはり、誰かの手でシャンプーをされるのは凄く気持ちいい。仕事疲れの影響か、これだけでも眠りについてしまいそうだった。
「かゆいところはこざいませんか?」
「大丈夫です」
お馴染みの質問のあと、すすぎにうつる。何だか名残惜しい。
「起こしますねー」
タオルドライをされ、顔の不織布を取られると同時に背もたれを起こされる。ちょうど、視線の先にカウンターが入る。店長はカウンターで何かの書類を書いていた。
「では、こちらにお願いします」
再び田中くんに促され、鏡前に座る。
「すみません、クロスを巻きますので、プロテクター外していただいても…?」
田中くんに恐る恐る言われ、再び緊張が走る。いよいよか…と覚悟を決めていたら変な間が空いてしまい、俺は「すいません」と謝りながら首のプロテクターに手をかけた。深呼吸する。指紋認証式のロックに触れると、パチッと金具が外れる。恐る恐るそれを首から剥がし、外したそれは鏡のすぐ下の棚にそっと置いた。公の場でこんな首がスースーするのは違和感があり、俺は思わず肩を縮めた。ふと鏡越しにカウンターの方を向くと、店長が頬杖をつき、こちらを見つめているのがみえた。俺は何事もなかったように視線をそらす。
「…失礼しますね。少し顔上げてもらってもいいですか?」
田中くんに言われるまま、背筋を伸ばして顔を上げると、プロテクターをしてた位置よりも下にクロスを巻かれ、その上からよだれ掛けのような分厚い布を巻かれた。
「きつくないですか?」
「大丈夫です」
「では、始めますね。よろしくお願いします」
いよいよ、カットが始まる。
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