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カット
カットされてる間は基本的に静かだった。特に読む雑誌等も渡されなかったため、俺はほとんど目をつむってじっとしていた。
ふと目を開けて鏡を見ると、鏡越しにこちらを見つめる店長が映って緊張が走る。もちろん、店長が見てるのは田中くんのカットであることは承知してるのだが、店長がアルファというだけでどうも自意識過剰になってしまう。
と、店長が動きだした。こちらに近寄るのではなく、シャンプー台のほうへ。シャンプー中に俺の膝にかけられ、立つときにめくられたまま放置されたブランケットを手に取った。そして、それをジッと見つめる。微動だにせず。
どうした?店長?
俺は店長の動きを注視する。店長、ブランケットを顔に少し近づけるが、数秒すると何事もなくブランケットをはたいて畳みはじめた。俺はホッと緊張を解く。
「あの、こんなこと聞くのは失礼かもしれませんが」
「え?」
田中くんの前置きに、俺は軽く声を発して反応する。
「このプロテクター、ずっとつけてると蒸れてきませんか?」
田中くんが目で鏡下のプロテクターの事を示す。俺が使っているのは、首輪のような細いベルトタイプのものではなく、つけ襟のような幅広いサポータータイプのものだ。薄型だからワイシャツの下でも見た目ほど邪魔にならないし、何よりこの形状だけでもアルファを牽制できる。
「確かに、炎天下でずっとつけてると辛いですけど。俺は基本的に内勤なんで、意外と首元が冷房にやられず助かってますよ」
「そうなんですね」
「とは言え今の季節だと、帰ったらすぐ外してます」
話しながらふと、田中くんのはさみが襟足に当たった。瞬間的にひやっとする。
「ふァっ!?」
思わず変な声が出て自分で驚く。鏡越しに店長がハッとこちらを振り向くのが見えた。
「すみません!痛かったですか!?」
「あ、いや!大丈夫です!慣れない感触にビックリしただけですから」
焦る田中くんをなだめる。駆け寄った店長が田中くんの脇に立ち、何も言わず俺のうなじをジッと見る。傷がついてないかの確認のためなのだろうが、位置が位置なだけに、恐怖に近いものが俺の全身を走った。
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