カット

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 店長は何も言わず、そのままカウンターへ戻る。それからまた、静かにカットが進んでいった。  ある程度切られたところで、ドライヤーを当てられ髪を乾かされる。その間に店長が静かにこちらに近づいてきた。ドライヤーが止められ、軽くコームを通されて髪がまっすぐにのばされる。 「ちょっとここが重いんじゃない?こういうときの切り方は…」  店長が俺の髪をつまみながら、専門用語を交えて田中くんにアドバイスする。 「こういうとき、君はどうする?」 「僕はこうしたいと思うんですけど、そういう場合…」  田中くんも、自分の意見をまとめながら、店長にアドバイスを乞う。俺の頭上を専門用語が飛び交い、なぜだか蚊帳の外にいる気分だった。 「うん、それでいいと思うよ。じゃあやってみて」  そうして仕上げのカットに突入する。が、最初の時に比べると、田中くんのはさみに迷いが感じられた。恐る恐るというか、悩みながら切っている。  入店から結構時間が経っているからか、俺自身はだんだん眠くなってきた。目をつむるとすぐに夢の世界へ飛んでいけそうだが、座ったまま寝ると俺はすぐ舟を漕ぐため、下手に眠ることもできない。  店長を見ると、床に落ちた髪を黙々と掃いていた。
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