スタイリング、そして

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スタイリング、そして

「お待たせしました!」  田中くんが階段を駆け下りてきた。店長は何事もなかったかのようにスッと離れる。どうやら、田中くんはヘアワックスを取りに行ってたようだ。容器の蓋を開け、中身を指先に取ると、それを俺の頭頂の髪に乗せるように伸ばした。どことなく爽やかな香りが漂う。どうせもう帰るだけなのだからセットする必要もないのだが、これも田中くんのための練習なのだろう。  普段なら絶対こんなセットはできないだろうな…という感じでかっちりとセットを決められ、俺のカットモデルは終了した。 「こっちの壁を背に立ってください」 「あ、今度は入口の方を向いて」  仕上がりの感じを記録するため、最後は連写する勢いで田中くんに何枚も写真を撮られた。 「遅くまで本当にありがとうございました!あ、これ、僕の名刺です」  帰り際に田中くんに名刺を渡される。載ってるのはサロンの住所と連絡先。 「よろしければまた、お越しください」 「ああ、はい。また、機会がありましたら」 「ありがとうございました!」  田中くんが深くお辞儀をする後ろで、店長も45度の背筋の伸びたお辞儀をする。  眠いのをこらえながら俺も深くお辞儀をし、店を出た。
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