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ー浅沼高校〜新たな出会い、そして再会ー
ピピピ...ピピピ...
んっ...
アラームの音で目が覚めた俺は、ベットから起き上がるとクローゼットを開けて、真新しい制服を取り出した。
「......。浅沼高校か...」
ぽつりと吐いた言葉は少し期待が混じっていた。なぜなら小学生時代からの付き合いだった神谷 寺井が《かみや てらい》通う高校だからだ。
ただ、クラスが同じになるかはわからないから神谷本人にも伝えていない。
早くに両親を亡くした俺は、親戚の家を転々とさせられていた。だが、高校1年生後半には浅舞夫妻に引き取られ、生活が一変した。
暖かな家族とやらに囲われていたが、そろそろ一人暮らしの準備でもしなければならない時期だ。
迷惑は掛けれない。
鏡を見てぼーっとしていると、
「零く〜ん?起きてる〜?朝ご飯よ〜?」
あぁ、暖かな声が僕を呼んでいる。
「はーい、今行きます。」静かな声で応える。
届いたのか、浅舞さん夫妻のお母さん、浴衣さんが、
「今日は零くんの好きなサケと、お味噌と...納豆とご飯と、あと〜、ひじきとにんじんと大豆の甘酢けよ〜」
「ふふっ...」僕の喜ぶ顔を想像したのだろう。とてもなごやかな声に、思わず微笑を浮かべた。
テーラードカラーのえりに、赤白緑のストライプ柄のネクタイが見える。
(これでいいか...)階段を降りると、サケの焼けた香ばしい匂いが食欲をそそる。
「とてもおいしそうです。」少しばかり笑みを浮かべると、僕の言動に少し驚いたようだがすぐに浴衣さんの顔がぱぁっと明るくなり、「さぁ隆史さんも零くんもどうぞ食べて?冷めないうちに。」「そうだな。」と隆史さんが穏やかな顔で僕を見て笑った。
「はい!」なんだか胸がほっこりする。少し明るめに言うと、嬉しそうな顔で箸を持ち、食べ物を口に運んだ。
僕もサケの身を箸でとり、ご飯と一緒に口へと運んだ。そして、
「とっても美味しいです!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「車には注意するのよ?隆史さんも行ってらっしゃい。」
「はい、行ってきます。」隆史さんと俺は、声を揃えていった。
それからしばらくして、浅沼高校が見えてきた。あぁ、憂鬱だ。
暖かな家族に巡り合逢えた。それだけで十分なはずなのに。
何かが足りない。あぁ、目の前にすると足がすくむな。
「...憂鬱だ......」
『ニャオ〜ン...?』
「え...?えぇ!?」何ということだ...。
猫が鞄に入り込んでいた。
(玄関に鞄を置きっぱなしにして朝ご飯を食べていたからその間に入り込んだのか?)
でも、もう戻る時間はない。
「仕方ない。隠しとうすか...」ため息混じりに吐いた言葉を理解したかのように猫...黒金は鳴いた。
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