場面四 本気(三)

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場面四 本気(三)

 胸元を軽く歯で嬲られて、思わず声を上げた。 「んあ………っ」  腕を縛り上げられているから、身に与えられる快感を、逃がす方法がない。 「わさん、案外敏感じゃの」  笑いを含んだ声で言われ、思わずカッとなって怒鳴った。 「やかましかっ」  袴紐も解かれ、帯も取り去られて、既に前は完全に開かれ、無防備な肌を友の前にさらしている。一方、枝吉は羽織を脱いだだけの状態で、帯を解いているので襟元はしどけなく緩んではいるものの、それだけに寛いで余裕綽々にも見える姿だ。何となくそれだけで、自分が劣勢に立たされているような気分になってしまう。  喉にも、肩にも、鎖骨にも、胸にも―――友は強く弱く、時に焦らすように、時に慈しむように唇を触れ、手で肌を撫でてゆく。島の反応を楽しむように、ゆっくりと。 「………っくそっ」  唇を噛み締めていなければ、あられもない声が漏れる。  陵辱されるというほどの、屈辱感はない。ただ己の無防備さが、少しばかり怖くなった。  女との情交なら、そうそう主導権を渡しはしない。こんな風に相手に身体を任せるということが、これほど不安なものだとは思わなかった。しかも、腕の自由まで奪われている。  やはり、拘束だけは解いて欲しい――― 「世徳っ、おいっ! あっ………!」  そう言おうとしたのに、下帯の上からゆるゆるとなぞられて、身体をよじって避けようとして叶わず、必死にかぶりを振った。 「何じゃ」  意地の悪い口調で尋ねられる。 「………ちかっと………まっ………っあ」  話を聞け………!  散々嬲られた胸がじくじくして、ゆるやかに刺激される己がもどかしくて、それでも何かにすがれれば少しは耐えられように、腕は固く拘束されたままだ。袴紐は解かれているが、袴は未だに中途半端に脚にまとわりついていて、その上に枝吉が膝をついているから、まともに身動きも出来ない。びくりびくりと身体が跳ねる。  なおも指でそれを弄りながら、枝吉は腹に口付ける。 「ぴちぴちと、堀で釣った魚のようじゃ」 「世徳!」  不意に、下帯が緩んだ。いや、解かれたのだろう。指が直にそれに絡み、あっと思った刹那、手とは違う生温かいものに包みこまれ、一瞬、訳が分らず頭の中が真っ白になった。  まさか。  顔を上げると、がっしりと膝を捉え、己の股間に顔を埋める友の姿が見えて。  まさか、冗談ではない。あの神童が、枝吉世徳が、己の脚の間に這い、口で一物を愛撫するなど。  気でも狂ったか。 「せっ………あっ、ああ………っ!」  世徳、と制止の声を上げようにも、万事そつのない友の口淫は、まるで巧みにうごめく女の陰(ほと)のようで、男の最も弱い部分に吸い付き、締め上げ、舐め回し、翻弄する。  脳髄を蕩かし―――言葉を奪う。  口から漏れるのは、意味のない、いやらしいあえぎ声のみ。  快楽が抵抗する力を奪い、ただ友の口中に捕らえられ、悶える。  これは―――奉仕か、支配か。  世徳。  常に自信に満ちて、堂々と人の前を歩いている、わさんほどの男が。  何し、そがん姿ばおいにさらす?
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