1 孫のアズキ

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「アズキ、アズキ、朝だよ、起きなさい」 初老の男性に肩を揺さぶられて、私は慌てて飛び起きた。 「すみません!私、寝坊してっ」 「大丈夫だよ、アズキ。それより、おじいちゃんに向かって、随分と他人みたいなこと言うんだね。おじいちゃん悲しいな」 そ、そうだった。 私はこの初老の男性の『孫のアズキ』なのだった。しかも幼稚園児の。 まさかここまで徹底してやるとは思っていなかったけど、人ゴミを人間に戻す試験みたいなものだものね、そんな簡単なもののわけがない。 私はブンブンと頭を振って、気持ちを切り替えた。 私は『望月 アズキ』で、この望月のおじいちゃんの孫。 「ごめんね、おじいちゃん。私ちょっと寝ぼけちゃった。そんな顔しないで。私はおじいちゃんのこと大好きだよ」 私はそう言って、出来るだけ無邪気におじいちゃんに抱きついた。 「おじいちゃんもアズキが大好きだよ。ほら早く顔を洗って、着替えてきなさい。朝ごはん出来てるから」 「はぁーい」 元気に返事をして、私は急いで準備をして、望月のおじいちゃんの作った美味しい朝ごはんを食べ、望月のおじいちゃんに連れられて、幼稚園へと向かった。 幼稚園の前には、優しそうな女の先生がいて、笑顔で挨拶をして子供たちを迎え入れていた。その先生が、私と望月のおじいちゃんの姿を見て、少しだけ顔を引き攣らせた。 「先生、おはようございます。先日連絡した通り、今日からまたアズキをよろしくお願いします」 望月のおじいちゃんが挨拶をして、私の背中に手を当てて、先生の前へと押しやった。 「先生、おはようございます。よろしくお願いします!」 出来るだけ無邪気に元気に挨拶して、私は大袈裟に頭を下げた。 「あらあら、アズキちゃん、すっかり元気になったのね。また今日から先生とも、お友達ともいっぱい遊ぼうね」 先生の笑顔はどこか引きつっていて、ぎこちなかったけれど、望月のおじいちゃんはそれには気づかなかったのか、再び「よろしくお願いします」と言って、家へ帰って行った。 しばらく沈黙が続いた後、先生は私の手を取って中に入り、一通り園内を案内してから、普段の園での過ごし方も教えてくれた。 「………あの、先生。こういう事って、もしかして今まで何回も?」 望月のおじいちゃんの姿がないことを確認して、私は先生に話し掛けた。 「あなたで5人目よ……みんな途中でリタイアしたけどね。とりあえず、ここにいる間は望月さん見ていないし、自由にしていていいし、私たちもあなたに特に干渉しないから」 先生も一応辺りに望月のおじいちゃんがいないか確認してから、小さな声で教えてくれた。 私で5人目… 一体あの望月のおじいちゃんは、何を求めてこんな事を繰り返しているのか… 気にはなるけど、でも、私はこれをやり遂げれば、人ゴミから人間に戻って…そして、あの男に復讐が出来る。 だから、どんな理由や思惑があろうとも、私は『孫のアズキ』になりきらなければ。
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