1 孫のアズキ

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バタバタと1ヶ月経ち、私はこの生活にかなり慣れてきた。 基本的に私は、幼稚園に通い、帰ってきたら望月のおじいちゃんと遊んだり、出掛けたり、植木の世話の手伝いをしたり、夕飯作るのを手伝ったりして、あとは寝る迄の間の自由時間があって寝るだけ。 孫になりきると言うから おじいちゃんと一緒にお風呂入ろうか なんて言われたらどうしようとか思ったけど、そんな事は全くなく、お風呂の時間は大人の私に戻り、一人ゆっくりと入浴し、その間に自分の服や下着を洗濯した。 洗濯も、一緒にされて、望月のおじいちゃんに干されたら凄く嫌だとか思っていたけど、そこも配慮してくれているようで、私は入浴中に洗濯をして部屋の片隅に干す、そんな形をとるようにした。 特に決め事をした訳ではなかったけど、望月のおじいちゃんは、私を『孫のアズキ』でいる時間と、素の大人の私でいる時間を、きっちりと分けて接しているようだった。 それはとても私にとって有難いことだった。 不安だった幼稚園も、初めは浮きまくって、どうしていいか分からなかったけど、徐々に他の子供達の私への警戒心もなくなり、今ではすっかり仲良くなって、違和感なく一緒に遊んでいる。 そして、一年が経つ頃には、私はほぼ完全に『孫のアズキ』に成り代わっていた。 『孫のアズキ』になりきるのは、確かに大変な事だったけど、どちらかと言えばいい事の方が多かった。望月のおじいちゃんの作るご飯は美味しいし、食べたいと言えば美味しいお菓子も買ってくれる。 大人の私の趣味の服は、買ったり着たり出来ないけど『孫のアズキ』に似合う物なら、沢山買って貰えた。そして『孫のアズキ』は子供なので、おもちゃも誕生日などのイベントの度に買って貰えた。 こんな生活、普通なら耐えられないのかなぁ。 私はここに来てから、望月のおじいちゃんにまだ怒られた事がない。 それどころか、望月のおじいちゃんからは、愛情しか感じられなかった。 だから『孫のアズキ』でいることに、苦痛を感じる事がなかった。むしろ、とても心は満たされていた。 そしていつしか私は、望月のおじいちゃんの事を、本当のおじいちゃんのように思うようになっていた。だけど、私は人ゴミで、この奇妙な生活が、いつまで続くかも分からない。 おかしいな。人間に戻りたいのに、ずっとここに居たいとも思っている。 私はそんな矛盾する気持ちを抱えながらも、望月のおじいちゃんの求める『孫のアズキ』であり続けた。
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