1 孫のアズキ

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『孫のアズキ』として二年目を迎える頃には 「もうすっかり溶け込んじゃったよね。私達もあなたに違和感感じなくなっちゃった」 先生にそう言われるほど、私は『孫のアズキ』として、幼稚園にもご近所にも溶け込んでいた。 それもそのはずで、一年間私はずっと幼稚園の子供達と過ごして、子供の考え方や、感じ方、反応の仕方などを、全て吸収したと言ってもいい。 甘え方も、喜び方も、怒り方も、泣き方も、全て子供のもので、初めはヒソヒソ言っていた近所の人も、いつしか『アズキちゃん』と呼んで挨拶をしてくれるようになった。 そうして幼稚園年長組になった私は、元の自分を忘れるくらいに『孫のアズキ』になり切っていた。そして、本来の目的も薄らいでいき、穏やかに、緩やかに、時は流れて行った。 そして三年目の春がやって来た。 私は、無事に幼稚園の卒園式も終わり、園のお友達と 「また小学校で会おうね。また一緒に遊ぼうね」 そんな事を、お互いに涙ぐみながら言ってお別れした。 この後私が、この『孫のアズキ』を継続して、小学校にも通うかどうかは、まだ分からないのだけど…。 望月のおじいちゃんも、卒園式の時から泣きっぱなしで、私とお友達のやり取りを見たり聞いたりしても、再び涙していた。 「おじいちゃんは泣き虫なんだから!幼稚園を卒業したって、私がおじいちゃんの傍から居なくなるわけじゃないんだから!」 私のその言葉に、望月のおじいちゃんは一瞬驚いて、そして 「そうだね、そうだったね」 と、私の頭を優しく撫でた。 そしてその後、私もふと我に返った。 無意識で言ってしまった言葉だけど、私は自分がいつまで望月のおじいちゃんの傍に居られるのか、居てもいいのか、何も伝えられていないのだ。 例えばこの後、不合格と言われれば人ゴミに、合格と言われれば人間に戻り、望月のおじいちゃんの元を去るのだろう。 私は頭を撫でられながら、この一緒に居たいと思う気持ちが、望月のおじいちゃんも同じだといいな、そんなことをずっと思っていた。
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