2 手に入った未来

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桜が満開になった、小学校入学式の朝 私は、私の体のサイズに合わせてあつらえられた小学校の制服を身につけ、望月のおじいちゃんが、やはり私のためにあつらえたランドセルを背負った。 「ああ、良く似合うよ、アズキ。私はずっと、この姿を見たかったんだ」 望月のおじいちゃんは、目に涙を滲ませて、本当に嬉しそうに笑った。 「おじいちゃん、学校の前で記念に写真を撮ろう?」 私は望月のおじいちゃんの手を引っ張って、早く学校に行こうと促した。 「ああ、そうだね。今度は一緒に写真が撮れるね…」 涙を拭って、望月のおじいちゃんは、私の手を握り返して、一緒に並んで歩いて、小学校へと向かった。 小学校の校門の前には『入学式』と書かれた立て看板があり、私は望月のおじいちゃんと並んで写真を撮った。 私が校舎に向かおうとすると、望月のおじいちゃんは私の手を引いて、そこから少し離れた場所へと連れて行った。 「おじいちゃん?」 「清水ショウコさん、合格です。あなたは見事に私の孫のアズキをやり遂げました。なので、あなたを人ゴミから、人間に戻しましょう」 私は驚きのあまり、言葉が何も出てこなかった。 この先も『孫のアズキ』でいるものだと思っていたから。 そうか、そうだった。私は人ゴミから人間に戻るため、この望月のおじいちゃんが良いと言うまで『孫のアズキ』でいたのだった。 私は本当は清水ショウコで、望月のおじいちゃんは、私の未来を決める先生だった。 「私はアズキが小学校に上がる半年前、一緒にランドセルを買いに行った。だけどその帰りアズキは事故で……。それからずっと、アズキの代わりにアズキとなって、この日を迎えてくれる人を探していた」 「それで何人もの人ゴミを引き取って『孫のアズキ』に…」 望月のおじいちゃんは、私の言葉に大きく一度だけ頷いた。そして、その後に私が忘れていた事を口にした。 「ショウコさん、人間に戻って生きて行くあてはあるのかい?」 「…それは……そうですね、人間に戻っても人ゴミに堕ちた記録は残るんですよね…」 そうだった。人ゴミに堕ちたということは、つまり罪を犯したということ。その記録が残るということは、ほとんど受け入れてくれる場所がないということ。 そもそも、人ゴミが人間に戻れるなんて稀な事で、それは奇跡のようなものだから…。 「もしショウコさんが良ければ、私の養子になって、私と暮らさないかい?」 「え?人ゴミの私を養子?」 「私が貰ったショウコさんの資料を見る限り、私は君が殺人などするように思えない。もしかして、私の思い違いかもしれないが、君は冤罪なのではないかい?」 その言葉に、私は自分を信じてくれる人がいた、その思いでいっぱいになって、目から涙が零れ落ちた。 「…恋人に二股掛けられて、さらに嵌められて、その二股の相手を私が殺した事にされて、私は何も反論も出来ずに、人ゴミに堕とされてしまった。私はあの男に復讐したいって…思ってたのに…」 『孫のアズキ』になっているうちに、私の心の中から、そんな醜いドロドロした気持ちは消えていって、今こうして思い出すまで、すっかり忘れていた。 それは、望月のおじいちゃんが、それだけ私を『孫のアズキ』として愛情を注いでくれたから。そんな愛情溢れるこの望月のおじいちゃんの娘になれるなら、どんなに幸せだろうか。 「私がその男を探し出して罪を暴き、必ず人ゴミに堕としてあげよう。そして君の名誉は回復してあげよう。だから、ショウコさん、君は私の娘になりなさい」 あの男の罪を暴き、私の名誉も回復させる。そんな事が、一人の老人に出来るものだろうか…。だけど、この望月のおじいちゃんは、周りの人を黙らせて、私を『孫のアズキ』として二年も行動させた。 もしかしたら、何か大きな権力でも持った人なのかもしれない。 だけど 今はそんなことはどうでもいい。 だって私は、心から、私を大切な娘として、愛情を注いでくれるこのおじいちゃんの娘になりたいから。 「これからは私の娘のショウコだよ」 「うん。あ、でも、これからもおじいちゃんって呼んでいい?この方が慣れちゃって…」 私がまだ『孫のアズキ』の姿を残しつつお願いすると、おじいちゃんは「いいよ」と言って、優しい笑顔を見せた。 そして、それから一週間が経ち 「それじゃあ、おじいちゃん、いってきまーす」 私は新しい就職先も決まり『望月ショウコ』としての人生の一歩を踏み出した。 おじいちゃんは 「行ってらっしゃい。気をつけて行くんだよ」 と、庭の植木に水をあげながら、笑顔で送り出してくれた。 私は一度は人ゴミに堕とされてしまったけど、だけどその事で、人ゴミに堕ちる前よりも、幸せな未来を手に入れた。 大好きよ、おじいちゃん
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