ひやっとしすぎな人々

5/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 教授に昇進した紗藤(さとう)風子(ふうこ)は、講義を終え、廊下を歩く。老朽化が目立ち、所々ひび割れている建物を出た。  キャンパスは夕暮れで、工事中の立派なビルを見上げた。来年の卒業式に間に合わせるため急ピッチで工事をしている。  手入れが行き届いた庭園からは、一番交通量が多い道路に面した一角が見えた。着工中の藤波大学付属五徳(ふじなみだいがくふぞくごとく)記念病院がそびえ立つ。  経営難だった頃、藤波大学は、外国人留学生を大量に受け入れていた。多くの学生が行方不明になった。  理事会が国の調査が入ると蜂の巣を突いいたような騒ぎになっていた。しかし、教員たちは動揺せず、研究や学生に指導に打ち込んだのだ。  藤波大学には、医学部も歯学部もない。藤波大学の敷地内にあれので、大学付属病院だ。  大学医務室が、大学付属クリニックになった。健診を中心にして、CTスキャンなどの設備が運び込まれ、大学付属クリニックになった頃、見当はついていた。  藤波大学の学生や教職員は全員、大学付属クリニックで定期健診を受ける。  立派な体育館兼温水プールは、特に工事は急いでいない。完成予想図は入学案内に掲載されている。  教職員の間で口の悪い人は、害虫(がいちゅう)御殿と陰で言っている。  大学生の人波に紛れる。最寄り駅と反対側を歩いて岐路に着く。  保史(ほし)からも、紙袋に入ったブランド品の昇進祝いを、大量に押しつけられた。  ちなみに、保史(ほし)は、藤波大学付属五徳(五徳)記念病院の院長に内定している。  ブランド品買取店で、売り払った。  自然に繁華街に歩みを進めた。財布は潤っているからだろか。  大人の対応ができないのか、自分が象牙の塔の住人かを、詰めて考えてしまう。心は満たされない。  路上の人波をかきわけ、厨房が見えない料理店の暖簾(のれん)をくぐる。混んだ店内で、右往左往する店員たちは、カラフルなエプロン姿だ。空腹は満たした。電子レンジも冷凍庫も虫も、当分は見たくもない。  店を出たのは深夜だった。街灯や店の窓明かりで煌々と照らされているが、空気はひんやりして重い。  コートの襟を立てながら帰路につく。(完)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!