ひやっとしすぎな人々

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「かいてはダメ、でもかゆい」  半生(はんなま)(ねむ)りで、ぽりぽり指先でかけば、快感だ。何度かイボは小さくなり、軟膏を塗る。しかし、治りかけがかゆく、眠っている間にかく。  (みなみ)農科(のうか)大学の雪乃(ゆきの)心春(こはる)は、頭皮にイボができた。「触らなければ、すぐ治ります」で、小さなチューブ入りの軟膏を処方された。  寝苦しい夏の夜のことだ。まどろみの世界に入れば、治りかけでかゆくなり、指先でかいてしまう。  悪循環が続いた。  結局、徐々に大きくなってしまった。軟膏もなくなり、診察を受けたのだ。診察室で女性看護師が小春の髪を掻き分ける。小春(こはる)にとっては、亡くなった母の世代だ。  男性内科医で院長の保史(ほし)琥太郎(こたろう)が診る。左右に押し分けられ、白い頭皮には、小さな突起状のイボがあった。  目で見ただけで、触診はしていない。白いゴム手袋を外しながら、裏返してデスクに置く。紙にペンを走らせながら、頭部のイボや位置をイラストで描く。 「手術で取るのをお勧めします。外科系の先生ならどなたでも取れる簡単な手術です。うちのクリニックで整形外科医の診察日がありますので、その日に来てください」 「しゅ、手術って、そんなにも悪いんですか? 先生が薬で治るって……」 「夜、睡眠中、無意識に、指などで触れたりしませでしたか?」 「少しは」 「大きくなった原因はそれかもしれませんね。命にかかわるデキモノではありませんが、今のうちにとっておけば、傷跡が目立たずに済みます」 「き、傷跡残るんですか?」 「髪で隠れる位置です。ほんの少し、ポツンと赤いのが半年くらいは残りますが、その後は、徐々に目立たなくなる可能性が高いです」 「半年たったら傷跡消えるんですか?」 「私は内科医ですので、外科の先生と話し合ってください。外科の説明で、もし、どうしても、ご納得できないのでしたら、お帰りいただくことになります」 「治してもらわないと、手術って、どのくらいの時間かかるんですか?」 「とても簡単な手術です。うちのクリニックに玄関から入って、二十分には玄関からご帰宅できます」 「待合室で外来診察の先生の表、見たんですが、皮膚科医の先生、来られる日でも良いですよね?」 「――はい」  沈黙が診察室全体を覆う。椅子に座り、動かない白衣の保史(ほし)言葉を探しているようだ。虚空に視線を漂わせていた。壁にかかった時計で視線を少し止める。話を端折ってすみません。お気持ちお察しします。今日はやけに混んでいるので、そろそろ、次の患者さんの診察をしたい。顔に書いてあるようだ。 「心配ありません」 「怖いんです」 「私も含めて、誰でも手術を受けるのは怖いです。雪乃(ゆきの)さんのご都合が良い日にお越しください」  ベテラン看護師に院長が目配せした。 「手術をされる先生の曜日が限られているので、受付で私が説明をします」
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