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絶対にこの手を離さない――意地でも! 何があっても、だ。
僕達は、多くの人でごった返している銀座の歩行者天国にやってきた。隣で、眉間に皺を寄せて目を泳がせているのは、何も隠すことはない最愛のパートナー、豪だ。
銀座歩行者天国のはじまりは、約50年前だという。週末や祝祭日には、正午から銀座通りを車両通行止めにし、道路全体を使って買い物や観光を楽しむことができる。道の中央にはパラソルが置かれているのに、その両脇には高級ブランドショップや有名百貨店等が軒を連ねている。牧歌的なパラソルと洗練されたショップとが、雲一つない青空と夏の強い陽射しの下で、しっくりとバランスよく収まっている妙に、つい魅入ってしまう――
『俺、伊〇屋に行きたいんだけど……』銀座通りに面している有名文房具店には、実に様々なステイショナリーが取り揃えられている。休みが取れた今日、約束を実行すべく、豪に行きたい場所を訊いた。すると、中学の頃から愛用しているボールペンの調子が悪いから、メンテナンスに出したいということだった。
「あの、離してくれないかな……?」
「駄目だ。約束だろう?」
「でも……俺、お金払ってからトイレ行きたいんだけど――」
トイレじゃ仕方がない。「分かった、行っておいで。僕は入口の所で待ってるよ」そう言って、その場を離れた。
8月最初の土曜日。タイミング良く『ゆかたで銀ぶら』というイベントが催されていて、通常よりも多くの人出があるようだ。これぞ、人ごみといった様相だ。これなら、豪も納得できるだろう。
今日は自分の本気度を、豪の心、否、その魂に刻み込むつもりだ。覚悟しておくんだぞ? 豪。
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