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「健さんは女性が抱けるし、現に娘のはるがいるよね?」
この日、僕は意を決してある思いを豪に伝えた。その際、最初に豪が放った内容がこれだった。正直、自分としては即答とはいかなくても……少なくともこの日のうちには快諾してもらえるものと踏んでいた為、予想外の返答に拍子抜けしたというか、何と言ったら良いのか――かなり落胆していた。
「ああ、そうだね。それの、何が問題なのかな?」
「……俺は、健さんが好きだし、ずっと一緒にいられたら良いな、と常日頃から考えてる。でも――」
生粋のゲイセクシャルは、恋愛が長続きしなかったり、相手が女性と結婚するなどして、関係を長続きさせることが困難だと聞いたことがある。もしかしたら、豪はこの先僕が女性に惹かれてしまうのではないかと――そんなことを懸念して、臆病になっているのかもしれない。
「豪は、僕のこと信用できない?」
「――そんなことっ! でも……ご実家の事もあるし、世間体、とか?」
ナーバスになっているのか、豪の目が潤んできた。
「僕の親については知っての通り、過去にはるの母親との結婚も反対したくらいだから、あまり期待しないで欲しい。で? 世間体がどうしたって?」
「……」
どうやら僕の社会的地位が、男と付き合っていることで脅かされやしないか? ということが心配らしい。
「――僕は、別にそういうことには拘りが無いんだ。偏った視線を向けられようものなら、断固として戦う。何も悪いことをしているわけじゃないだろう? 他人様に迷惑を掛けているわけでもないし」
自分なりに精一杯、本心からの言葉を豪に伝えた。
「でも……。女性となら、昼間っから手を繋いでデートができるだろ? でも俺とじゃそんな事、一生できないよ」
「あと、えっと――」豪が、真っ赤になって次に繰り出すべく言葉を探しているが、上手く言葉にならないようだ。
しばらくすると、唐突に「本当に――本当に、この先俺とゲイカップルとして生きいくつもりなら、大勢の人の前で堂々と手を繋いで丸一日過ごせるでしょ? どう?」どうせできないだろうといった、諦念を滲ませた寂しい表情で、それでも裏腹な口は挑発的な言葉を僕に突き付ける。
正直、そんなに簡単なことでいいのか? と内心では思ったが、口には出さず「お安いご用だよ! タイミング良く休める日を作って、大勢の前で手つなぎデートをしよう」そう豪に告げると共に、それで納得ができたら僕の願いを叶えて欲しいと伝えた――すると豪はしばらく黙考した後、静かに頷いた。
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