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「やっぱり、健さんはカッコイイなぁ」
豪が用意してくれたストライプのドレスシャツとジャストフィットのトラウザーズを身に着けてから、洗面所で軽く髪を整えていると、同じようにあとはジャケットだけ着れば出かけられる格好になった豪が、後ろから覗き込んできた。約10センチ高い場所から豪が鏡越しに僕の髪を見て「う~ん。これって、無造作ヘアって言うのかな? 少し伸びたなぁ――」と言うと、悪戦苦闘していた僕からヘアブラシを取り上げ、ドライヤーと整髪剤で形を整え始めた。
そういえば、どのくらい床屋に行ってないだろうか? 日常の忙しさにかまけて、自分の容姿に構っている暇などなかったが、今日くらい――ビシッと決めるべきだった――大反省だ。
「はいっ、出来上がり。健さんの髪は猫っ毛で緩くウェーブがかかってるから、伸びていても形を作りやすいからいいよ。俺なんて、直毛だから常に切りに行かないと目に入って、鬱陶しいんだ」
ほら! こうやってさり気なく――相手の状況を察し、心を慮るような言葉をさらりと発するんだ――彼女と全く同じタイミングで。こういう時、豪に出逢えて豪を選べた自分を、最大限に褒めてやりたくなる。
「さあ、行くよ。忘れ物はないかい?」
「――うん。ボールペンも持ったし……多分、大丈夫」
よし! スタートだ。
「ほら!」
「……ッ」
「早く出して!」
「……ムリ――!」
玄関の施錠を済ませた豪に向かって、自分の掌を上に向けて差し出した。
「ムリは無しだ。今日は、一日中僕と手を繋いでもらうからね」
「勘弁して――そんなの羞恥プレイだよ……」
「羞恥プレイ? それって、どういう意味? 僕は豪を貶めようと思っているわけじゃないよ?」
「でも……近所じゃ、皆が見てるし――」
筋肉質な痩せ型で185の豪は、薄ピンクでタイトなボタンダウンのドレスシャツと、アンクルカットの上品なスリムトラウザーズに身を包んでいる。それらは、彼自身が放つ怜悧な雰囲気との相乗効果で、なんともいえない男の色気を醸し出していた――そんな豪が、恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして項垂れている。
「う~ん……。僕は、何処で誰に見られても大丈夫なんだよ。それとも豪は、僕とそういう関係だと知られることが嫌なのかい?」
「違う! でも、ここは病院からも近いし――恥ずかしい、です……」
ああ、敬語が出たか。やっと近頃、豪から敬語が抜けてきて、また一歩関係が深まったと思っていたところなのに。ならば――
「分かった。じゃあ、譲歩して有楽町に着いたらつなぐことにしよう。電車の中でも、嫌なんだろう?」
「……ぅん」
OK! さあ。僕の本気を受け取って欲しい、キミに。
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