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5
医者の不養生なんていうことわざがあるが、的を射ているから困ったものである――先日、医学部同期の友人と久しぶりに学会で再会した。彼は大学病院で勤務した後、親の介護があるという理由で地方の公立病院に転職した。数年振りに会った友人は、少し印象が変わっていた。
「痩せたな。激務か?」
「ああ。地方の病院は、何でも屋を求められちまうから大変だ」
友人も、専門は自分と同じ外科だった。
「そうか。それにしても、顔色も良くないじゃないか……」
ははは。と苦笑してから『お前には、隠し事できねえな』と言って、昨年罹患したときの話を始めた。
「参ったよ。俺、彼女がいるんだ。殆ど妻みたいなもんだな。実は、両親が認知症になったもんだから彼女に苦労させたくなくて、俺自身が入籍を渋ってたんだけどな……」
ある時、友人は出先で倒れて救急搬送され、辛うじて意識が戻った際に彼女を呼んだという。
「その時の診断で緊急手術という話になって、同意書のサインは、籍の入っていない彼女では駄目だと病院側が言い張ったんだ。どんなに彼女が、俺の両親には判断能力がないと伝えても、決まり事として両親に電話した。当然、全く話にならず膠着しているときに俺が覚醒し、彼女に全てを委ねたいと伝えたんだが――」
病院側は首を縦に振らなかったという。
結局、自分の勤務する病院の院長を使って話を進め、事なきを得た。その時、つくづく入籍しておけばよかったと実感したと真剣に話していた。
「お前、未だ再婚してないんだろ? 確か、親と上手くいってないって言ってたよな? 娘の事もあるんだから、健康に気を付けろよ」
「ああ、有難う。お前もな! 結婚、おめでとう」
それから直ぐに入籍したが、両親がそんな状態なので式は挙げないと言っている。戻ったら、祝いの品を贈ってやろう。
――自分に、何かがあったとき……今の状態では、連絡が行くのは地方に住む両親の元だ。はるはまだ子供だし、豪には、なにも手出しができないということになる。
「……そんなの、駄目だッ!」
「うん? どうした?」
「いや。何でもない……」
友人の話で勢いづいていたのかもしれない……戻ってから、豪に『結婚して欲しい』と伝えた。
すると、豪は躊躇したのだ――これまで、折に触れて入籍の形について話をしてきた。現行法の下では、養子縁組が最良であること。将来、娘のことも、自分の親ではなくて豪にお願いしたいと伝えてあり、色好い返答を得ていた。だからこそ……即、受諾してもらえなかったことに、少なからずショックを受けていた。
――性急すぎたのだろうか?
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