『ひんやり』への思慕

2/2
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 その時、緊急警報がけたたましく鳴り響いた。自動的にスクリーンの画面がつき、この世界の平和が侵されたことをニュースで告げている。  ビーッ、ビーッ、ビーッ……  人々が、逃げ惑っている。自分もどこかへ逃げなくてはと思いながらも、その先が分からない。少女は、この温室から一歩も外へ出たことなどないのだから。  バタンッ!!  一度も開かれたことのなかった扉が、乱暴に抉じ開けられた。途端に、冷たい強風が少女の頰に吹き付け、髪を掻き乱す。少女は手を頰に当てた。  冷たくて、気持ちいい……これが、『ひんやり』なの?  目の前では、本の挿絵でしか見たことのない、動物の毛皮を身につけた男が叫んでいる。 「これからは俺たちがこのシェルターの支配者だ。お前たちはここから出て行け!!」  言われるがまま扉の外に出た少女が見たのは、一面の銀世界。地球は、6度目の氷河期を迎えていた。  足を踏み出すと、ジンと神経が震え、体が硬くなった。  これが、雪。『ひんやり』。  少し、怖い……  そう感じた瞬間、「せいぜい頑張って生き抜けよ!」その声とともに、扉が勢いよくバターンと閉められた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!