Hot Sherbet

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. 人里も離れた森の中と言うのに、近頃は人間達がよく訪れる。 やはりここ連日の暑さ。 ひとときの涼を求めたい気持ちは、どんな種族も変わらないのだろう。 店と呼べるほどたいそうな設えではないが、木々の葉をふんだんに施して、それなりの小屋は用意した。 小屋の横の木陰には、簡素ながら椅子とテーブルも置き、心地をつける場所も作っておいた。 木漏れ日から射し込む強い陽射しが、カウンターの棚に射し込み、とりどりに並ぶ瓶を輝かせている。 わたしはピックルの果汁が入った瓶を手に取ると、その黄色い液体をグラスいっぱいに注ぐ。 そのグラスの上から手をかざし、白く煌めく粒子を放てば、液体は見る間に凍ってゆき、白い幕で覆われ始めてきた。 そんな様子がさぞかし珍しかろうと思っていたが、客が興味を持って見ていたのは、どうやらわたしの顔らしい。 「へぇー、やっぱり耳が尖ってるんだなぁ。それに噂どうりの美人じゃないか。 街で評判のエルフの氷菓子屋があるってんで来てみたが…… こりゃあ野郎共が騒ぐわけだぜ」 この手の台詞は、もういい加減聞きあきている。 うんざりしながら「どうも」とだけ返し、仕事の仕上げにかかる。 黄色い果汁はシャーベット状まで氷結し、こんもりと盛り上がっていた。 それにカットしたピックルの果実を3つほど乗せ、砂糖で味付けしたシバヤギのミルクを回し垂らす。 カウンターに頬杖で、そんな手順を見守りながら、男はさらに口を挟んできた。 「エルフさん、なんだか態度も素っ気なくて冷たいねぇ。 それにさっきからニコリともしないのは、せっかくの美人がもったいないぜ? やっぱあれかい? 氷の魔術師レイムールとして名を轟かせるくらいだと、心までクールになっちまうのかい?」 耳障りな減らず口を無視して、カウンターに出来上がった氷菓子のグラスを置いた。 彼は、なおも続ける。 「そっちのほうも噂だぜぇ? かつて、トルド山の凶悪なバジリスクを倒したっていう、英雄的な冒険者パーティーの1人だったんだろ? なんだい、魔物狩りはもう辞めちまったのかい? 近頃はミスールの谷の方に、たちの悪いドラゴンが現れたって言うじゃないか。 あんたほどの使い手なら、奴をやれそうに思うんだがなぁ」 「わたしはもう、血生臭い事を好むほど、若くはない」 人間にしてみれば、見た目こそは若いのだろうが、実際は彼の何倍も世の移り変わりを見続けてきた。 それに感情の起伏が少ないのは生まれつきであり、別に氷冷魔法の使い手が全てそうということはない。 情よりも理を重んじてきた性分が、冷たいと言われれば冷たいのだろうし、そんな言葉も嫌というほど聞きあきている。 情に駆られて判断を見誤るくらいなら、わたしは冷たい女で構わない。 .
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