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人間とはなんと愚かな生き物なのだろうと思う。
寿命にして100も生きられないくせに、その短命をわざわざ戦いで散らしてゆく。
かつてともに冒険した人間達もそうだった。
己の力量の及ばない敵でさえ、平和の為だなんだと立ち向かって行くのだから、無謀を越えて呆れてくる。
そんな儚くも脆い生物達が、果敢に死んでいく様を、いったいいくつ見て来ただろうか。
所詮わたしの忠告など聞かぬ愚か者ならば、これ以上手助けする甲斐もないだろう。
今しがたの男を最後に、どうやら客足は途絶えたらしかった。
木々の間を抜けた日溜まりが、若干の赤みを帯びてきており、風の精霊達も、そろそろ夕刻に向け森の温度を宥めはじめていた。
わたしが店じまいの準備を進めていると、ふと、小道の奥から歩いてくる1つの人影がある。
見れば白髪の老人であり、杖をつく足取りもおぼつかない。
あのような老体が氷菓子を求めるのも珍しく、おそらくは不自由な脚でようやくここまで来たのだろう。
わたしは仕舞いかけた果汁の瓶を再び陳列し直し、彼がここまで来るのを待っていた。
さてあの老人、いったい何を注文するのやら。なるべくなら体に良い、プアプの果汁でも勧めてみるか──
そんな事を考えていた時だ。
その男はわたしの目前に来るなり、白い口髭をニヤリと引き上げ、言ったのだ。
「久しぶりだな、レイ。
やはりエルフは年を取らないらしい。
何十年たとうが、お前は何一つ変わらないのだな」
驚いた目で、咄嗟に皺枯れた顔を熟視する。
その声を、その呼び方を、わたしが忘れるはずがない。
そして老いたくせをして、子供のようなこの笑顔も、だ。
「おぬし、ジュディオなのか?」
「はっはっはっ、すっかりジジイになって見違えただろう?
いかにも、お前のかつての戦友だ。
お前の作る氷菓子がどんなものか、少し味見してみたくてな 」
1つ欠けた前歯を見せ、朗らかに笑うこの男は、かつて共に旅をしたパーティーの仲間だった。
あの旅の終わりから、果たしてどれくらいの年月が経ったのだろうか。
すっかり変わってしまったようでもあり、どこか変わらぬようでもある。
思ってもいない再会に固まるわたしをよそにして、ジュディオはカウンターに身を乗り出し、さっそく瓶を物色し始めていた。
「あれはなんだ?
あの赤いの」
「……あれはロックベリーの果汁だ」
「ほう、ロックベリーは大好物だ。
それを1つもらおうか」
この男、わざわざ氷など食いにわたしを訪れるとも思えない。
どんな意図があって現れたのかは知らないが、とりあえずは言われるままに、氷菓子を用意してやった。
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