Hot Sherbet

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. 氷解した氷は水となり、わたしを押し流していた。 気がつけばジュディオを椅子に座らせ、右膝に手をかざすわたしがいた。 手の平から放射される白い粒子の帯が、痩せ細った脚に浸透していく。 ジュディオは冷たいと身を捩り、歯を食い縛って懸命に堪えている。 「よし、これくらいにしておく。これ以上やれば、動作にも支障をきたすからな。 それにしてもおぬし、ずいぶんと痩せたな。 昔の勇姿は見る影もないではないか」 「ふっ、エルフと人間は時間が違うよ。 もし俺もエルフに生まれていたら、お前の手を煩わせずとも存分に戦えたろうに。 長命のエルフが羨ましいよ」 「そうか……わたしは、人間に生まれたかったがな……」 何故だ?というジュディオの問いに、わたしは答える代わりに微かに笑った。 エルフと人間。 神が作られた、決して越えることができない種族の壁。 もしもわたしがジュディオと同じ種族だったなら、彼と結ばれることが出来たのだろうか? あの夜の彼の口づけを、喜びで受け入れることが出来たのだろうか? いくら考えても、どうしようもないそんな事を、再び考えてしまうのも久しぶりのこと。 所詮夫婦として生きられぬ定めならば── せめてパーティーの仲間として、最後まで共に、添い遂げさせて欲しい。 「ジュディオ、痛みを消すにも条件がある。 わたしも共に、ミスールの谷に連れていけ」 「ほう、氷の魔術師レイムールが再び弓を取ると?」 「拒否は不可能だ。 散々わたしの制止を跳ね退けてきたおぬしだ。今度はわたしが、我が儘を言わせてもらうぞ」 静寂に包まれた森に、高らかな老人の笑い声が広がる。 夕日に滲む空が、白髪を仄かな茜に染めていく。 おそらくわたしの白銀の髪も、今は彼の血潮同然に赤いのだろう。 変わったように見えて、何ひとつ変わっていない最愛の男は、悪戯っ子のような笑顔でわたしを覗き込んだ。 「思い出した、そう言えばバジリスク戦の時もそうだった。 お前の氷冷魔法は、何故か知らんが、どこか温かいんだった。 お前さん、心でもこめてんのかい?」 「ざ、戯れ言を言うなっ! 今しがた冷たいと身悶えたばかりではないかっ! 氷の魔術師に対する侮辱だっ!」 心とは、つくづく理論では割り切れないものだと思う。 どうやら愚かさにおいて、わたしも人間とそうたいして変わらぬらしい。 あぁ、風の精霊よ、どうかわたしの願いを聞いて欲しい。 火を宿してしまったこの頰を、気づかれぬうちに冷ましてはくれまいか。 いかにわたしの魔法でも、冷やすことなどできないのだから── ~fin~ .
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