2人が本棚に入れています
本棚に追加
サユリは、家事を放棄し、家を後にした。
敷地から一歩外へ出ると、工場のような、倉庫のそうな建物が並ぶ通りに出る。
その通りを右に折れて歩く。
もう既に日は傾きかけている。しだいに長くなるサユリの影以外に人影は無い。侘しい道を真っ直ぐに、迷いなく歩調を変えずに進んでゆく。
前方の山々がその存在感を増すにつれて、橋がかかっているのが見えてきた。
目的の場所だった。
そして思い出す。
朝の、脳裏に焼き付いてしまったあの光景。そのままの場所がそこにある。
橋の上にはあの男が立っている。
まるでリプレイ映像を観ているよう。
男に近づき、顔を確認する。
やはり、彼の顔は分からなかった。
サユリは目を細め、困ったように眉を寄せて微笑んでみる。
最初のコメントを投稿しよう!