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百合の死後。
悩んだ末、彼女を献体とした。
そして秘密裏に、百合のDNA分析や脳の標本化情報を、サユリの脳神経系統構築と、AIプログラムにほんの少しだけ組込んでいる。
だからといって、百合を蘇らせたいという考えでは全く無い。純粋に彼女の遺志を汲みたいという想いからだ。
AIプログラムと素体は、別人格を与えていた。
そのはずなのに最近では、仕草や言動が百合のそれとますます似てきている。
バグなのか?
原因を知る為には、ログを解析しない訳にはいかない。
ここのところほぼ毎日、サユリを呼び出しているのはそのためだった。
男はサユリを元来た道へ向き直し、首の後ろにある人口皮膚の裂け目から、メモリチップを取り出した。そして新しい物と交換する。
チップには、サユリのログがバックアップされている。
百合の魂が再びヒューマノイドに宿る事など、到底無理だと理解しているし、端から期待などしてはいない。
それでも……と、
男は考えてしまう。
人の形を限りなく模し、人と同等の思考や感情を兼ね備えた人形は、人との差異を何処に見出す事ができるのか?
もしそれが、『心』だとするのならば、
AIにも、存在し得るのだろうかと……
男にとって非常に興味深い命題ではあった。
背中をポンと叩く。
「サユリ。ホーム。18:00時にリブート。同時にモード設定を16:00時時点に復元」
「ショウチシマシタ」
サユリは真っ直ぐ、何事も無かったように歩き始める。
研究施設に併設された、モデルハウスに向かって……
その後ろ姿をずっと彼は見送った。
手のひらのチップを見つめる。
ふと過ぎる、
これがサユリの魂の重さなのかもしれないと……
人が、人たらしめる根幹は、ただの塩基数列の情報だ。
AIが彼に問いかけた、言霊は、百合のものなのだろうか?
AIの言霊は彼だけが解読できる。
手の中のメモリチップを握りしめ、一人呟く。
「君の残した念。受け取ったよ」
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