gama1.蛙国への嫁入り

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gama1.蛙国への嫁入り

《ぐはははは、人間だ。人間だ》 《人間がこの森を通るのは何年ぶりだ?》 《旨そうだ。旨そうだ》 《食っちまえ、食っちまえ》 鬱蒼とした大きな森を一台の馬車が通り過ぎて行く。馬車を操る御者は何重にも厚く重ね着した上に、魔除けのお札を無数に貼り、ぶつぶつと念仏を唱えながら、一心不乱に鞭を振るっていた。 《ゲロゲロゲロ》 《グワグワグワ》 深く茂った森は陽の光も僅かで薄暗く、蛙の鳴き声だけが不気味にこだまする。 「ああ、恐ろしや、恐ろしや。今の鳴き声、クエクエクエって、確かに、食え食え食えって言ってましたわ!」 「落ち着いて、ばあや。ばあやは歳がいってるし、私は骨と皮ばかりで、蛙の好みじゃないわよ」 「何をご呑気な! 姫さま。相手は化けガエルですよ? ゲテモノ食いに決まってます!」 「大丈夫よ、ばあや。もしそうでもカエルには歯がないわ。丸飲みだから痛くないわよ」 「…ですかね?」 「間違いないわ。いざとなったら吐き出してもらえばいいのよ」 馬車の中にはまだうら若き女性とやや老齢な女性が二人。互いに手を取り合って励まし合っていた。若い方の女性は、アヤメ。かつて文明大国と誉めそやされた大陸の中央に位置するボッチャリ国の第三皇女にして、日焼けした牛蒡のような身体を着古したドレスに包み、これがまさかの輿入れ道中。お供は先ほどから嘆きが止まらない老齢のばあや、ただ一人。 「姫さま。ばあやは、ばあやは悔しゅうございます。ボッチャリ国の王女さまともあろうお方が、何を好き好んで妖怪国なんぞに嫁がねばならないのです? 王は恥を知らないのです。血を分けた実の娘ですよ?」 「まあまあ、ばあや。仕方がないわ。ボッチャリ国は借金がかさみ過ぎてにっちもさっちもいかなくなったんだもの。お父様だって悪いと仰っていたじゃない」 「だからって、何も化け物に差し出すことないじゃございませんか。これじゃ嫁入りじゃなくて生け贄です!」 メソメソ泣くばあやの頭をアヤメはよしよしと優しく撫でた。 「受け入れ先があっただけ良かったわよ。支度金もうんと弾んでくれたってお父様嬉しそうだったわ。これでボッチャリ国のみんなも少しはいい暮らしが出来るわよ」 「全然良くございません! 蛙国ですよ? ガマガエルの化け物が王太子ですよ? どんな目に遭わされるか知れたもんじゃございません!」 「まあまあ。ガマ王太子が噂通りの妖怪王だとしても、意外と気が合うかもしれないし」 「姫さまは楽観的過ぎます! 一飲みにされるに決まってますわ」 「大丈夫よ、ばあや。一飲みなら痛くないし、お腹の中に入るなんてそうそう出来ない経験よ」 「二度と何の経験も出来なくなりますわよ!」 でこぼこした森の道はぬかるみ、馬車は車輪を取られて何度目かの立ち往生をしていた。馬車を降りたアヤメとばあやが後ろから荷台を押していると、ふいに生暖かい風が吹いて、大柄な黒い集団が現れた。馬車を取り囲んだ集団を見ると、頭は蛙で身体は人間という明らかに異形な姿。いわゆる、ガマ獣人とでも言うべき大男たちが揃いも揃ってものも言わず、じっと見下ろしているのだった。
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