gama4. 金と銀の来訪者

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gama4. 金と銀の来訪者

若き新妻にコスプレさせて、寝てるのをいいことに、ニヤニヤ眺めている変態ガマ夫決定―――――!! 窮地に追い込まれたガマニエルは、目を覚ましたアヤメを見つめたまま一ミリも動けなかった。そんなガマニエルの動揺をよそに、アヤメは眠そうに何度か目を瞬き、ガマニエルの姿を認めるとその小さな顔をいっぱいにほころばせた。 「旦那様」 かと思う間もなく、弾むようにベッドから降りて一直線にガマニエルに向かってくる。 そんな動いたら、見えちゃうだろ―――っ と叫びたいのに叫べない。動揺に動揺を重ねて結局全く動けない。 ただただ固まっているガマニエルの腰辺りに、ぽすん、と小さな温かい塊が飛びついてきた。危ないので反射的に手を添える。 「おかえりなさい」 するとアヤメは至極嬉しそうに微笑んでガマニエルを見上げた。 可愛い。可愛いが、ヤバい。上から見ると胸が、…見えそうで慌てて自身に引き寄せる。 その結果、腰元にアヤメの熱が伝わるのを感じた。いや、待て。そんなところにしがみ付いてはいけない。否応なく新たな熱が生み出され、全身が冷や汗で固まる。 「あ、…いや、うん」 頼むから顔を擦り付けるな。そんな可愛い顔して。そんな無防備な格好して。反応しちゃうだろ!? 「もう、お休みになりますか。今夜はご一緒に寝ていただけますか」 ガマニエルが無心を装って反応を耐えていると、アヤメがストレートに聞いてきた。 「は!?」 寝る? 寝るって、…寝る?  いやいや、ダメだろう。俺がここ数日何のために床に寝てたと思っているんだ。 ガマニエルは初日の失敗を繰り返さないよう、アヤメが寝入ってから居室に入り起こさないように床で寝て、アヤメが起きる前に居室を出ていた。 「…ダメですか?」 見るからにアヤメがしょんぼりしている。 何と言うことだ。この娘は俺と寝たいのだ。そのために裸エプロンで待っていたのだ。 大丈夫だろうか。こいつはちゃんと目が見えてるのか。気持ち悪い妖怪蛙だぞ? 基本生理的に無理レベルのグロさだぞ? おい、目を覚ませ。ちゃんとよく見ろ、と言いたいが、一縷の望みを抱いてガマニエルを見上げるアヤメを前に言葉が詰まる。 「…ダメ」 と、口にすると、あからさまにアヤメの顔が曇るので、 「…ではない」 と付け加えることになってしまった。俺のバカ。と思うが、後の祭りだ。 「嬉しいですっ」 アヤメが声を弾ませて、ぎゅうっとその柔らかい身体をくっつけてくる。こいつ、自分の格好を分かっているんだろうか。なんというか、…近いんだが。 仕方なく、アヤメを抱き上げると、エプロンが服に擦れて捲れ、一瞬アヤメの胸元があらわになった。ガマニエルは顔に血が上るのを感じ、 無味乾燥、空即是色、輪廻転生、即断即決、ヤリ目厳禁、… 邪念を振り飛ばして思いついた熟語を唱えながら、なんとかベッドまで移動する。 いや、大丈夫か、俺。 ガマニエルは目が回りそうだった。今でこそ、誰とも接する機会がないが、月皇子時代は数多の女性が列をなして寄ってきたので、半裸だろうと全裸だろうと見飽きるほど見てきたし、腐るほど経験もあるはずなのだが。 こんな小さくて健気な娘に反応するとか信じられない。同じベッドで寝て、何をしてしまうか、自分が信じられない。この娘にこれからしなければならない仕打ちを思えば、絶対に心を寄せたり手を出したりしてはならないのに。 「…旦那様のおそば、好きです」 ガマニエルの葛藤を知る由もないアヤメは、ガマニエルの腕の中にすっぽり納まって、心地よさそうに身体を擦り付けてくる。滑らかで柔らかくて良い匂いがする。思わず、その背中を撫でかけて、肌の熱を直接感じ、急いで手を止めた。気づけば、アヤメの温かな吐息が喉元をくすぐり、胸の上に置かれた小さな手の重みを感じる。 水素・ヘリウム・リチウム・ベリリウム・ホウ素・炭素・窒素・酸素・フッ素・ネオン、… 何でもいい。頭を空っぽにしろ。 ガマニエルは自分に命じて取り急ぎ脳内で元素を唱え始めた。 大丈夫、イケる。 と思った瞬間、首筋辺りに柔らかい温もりが軽く触れ、全身に痺れが走る。 ま、…さか、こいつ、今、このキモ蛙に、… 「おやすみなさいませ、旦那様」 首筋が熱い。柔らかい感触が消えない。嘘だろ、今、キス、したのか…? 動悸が凄い。血管がちぎれる。何かが爆発しそうだ。 ガマニエルが身体をこわばらせて闇夜を睨んでいるうちに、程なくしてアヤメの安らかな寝息が聞こえてきた。この状態で寝るとか何の試練だよ。健やかな、安心しきった寝息を耳に、ガマニエルは一睡もできず、身じろぎ一つできず、白々と空が明けてくるまで元素周期表だけを頼りにひたすら耐え抜いた。 救いの夜明け。 そっとアヤメが眠るベッドから抜け出し、げっそりと居室を出ると、腹心の部下たちが待っていた。 「なんだ、こんなに早く」 いささか不機嫌なのは仕方がないだろう。ガマニエルの忍耐はとっくに限界を超えている。 ガマニエルを迎えたのはガラコスとルキオで、フットワークが軽い二人には、最近アヤメの供をさせている。 「おーじ、大変」「金と銀が来る」 「アヤメの姉姫」「様子見に来る」 ガラコスとルキオ曰く、美人と名高いアヤメの姉姫たちが、嫁ぎ先の王子を連れて、蛙国に嫁いだ末妹の様子を見に向かっているらしい。 進退窮まった。嫌がらせが過ぎる。 ガマニエルの受難は続く。
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