gama4. 金と銀の来訪者

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「アマリリスお姉様、アネモネお姉様、ようこそお越しくださいました。相変わらずお二人とも、とってもお綺麗ですわ」 蛙国の鬱々とした森を抜け、どんより開けた街の先に、苔むして蔦の絡まった王城がある。金と銀の馬車が王城の門を通り抜けると、薄気味の悪い蛙獣人がわらわらと集まり出てきて、金銀王子とその妃たちを出迎えた。その中に、地味でパッとしない我が末妹のアヤメも加わっていたのだが、その土臭さが見事にこの国と蛙に調和していた。 「あら、アヤメ。元気そうで何よりね」 金色に輝くハイスペックな夫に手を引かれて馬車を降りたアマリリスは、相変わらず平坦で貧乏臭いアヤメの風貌を見て鼻でせせら笑ったものの、ボッチャリ国にいた頃よりも、格段に生き生きしているその姿に内心眉をひそめた。 なんだか、えらく楽しそうだわ。もっと恐怖と絶望に打ちひしがれているかと思ったのに。 「この国の蓮根、とっても美味しいんですよ。たくさん用意してありますから、お召し上がりくださいね。お姉様たちもきっと気に入りますわ」 グロテスクさが絶妙で、いやに生々しい蛙獣人の容貌に心底嫌悪感を抱きつつ、案内に従って銀色に輝く拡張高い夫と歓迎の宴に参加したアネモネは、根菜料理なんてダサ過ぎるわと内心小馬鹿にしながら、勧められるままに口を付けて、溢れ出す蓮根の旨味に思わず喉を鳴らした。 はっきり言って、今まで食べたものの中で一番の美味しさだわ。これが蓮根!? あの泥にまみれた? 穴ぼこだらけの? アマリリスとアネモネにうっぷんが溜まるが、穏やかならざる内情は全く顧みられずに、宴は華やかに続いていた。 薄暗く湿った国ではあるが、国民は明るく陽気に歌ったり踊ったりして、不気味な蛙の容姿のくせに悲壮感はまるでない。国王と王妃は親しみやすく朗らかで、アヤメはすっかり打ち解けているし、年をとって口やかましさしか取り柄のない偏屈なばあやも従者らしき蛙と微笑みを交わしながら楽しそうにしている。未開の地に踏み入れた金と銀と王子は、美味しい料理と温かなもてなしにすっかりくつろいで、嬉々としてこの国とこれからの世界の有り様を語り合っている。 おかしい。思ってたのと違う。 私たちはアヤメの泣きっ面に蜂加減を楽しみにして来たのに! 「噂に踊らされずに実際に目で見ることが大事だとよく分かりました」 「我が国々と今後も懇意に願いたいですね」 無能な夫たちは国王や王妃と仲良し宣言などして、全く使えない。 これじゃあ私たちの幸せ度合いが全く際立たないわ! 姉姫たちの苛立ちが募る中、バカ王子たちは蓮池に眠る水晶を見に行こうなどと言い出した。 曰く。 蓮池に咲く睡蓮がその花びらを閉じた後、花の中に閉じ込められた雫が水中に落ちて溜まり、根本で宝石になる。それはそれは美しい宝石で同じものは二つと出来ないのだとか。 「素晴らしい。お前が好きそうなロマンチックな話じゃないか」 金色王子に話を向けられて、長姉アマリリスの苛立ちは、最高潮に達した。 「冗談じゃないわ。この美しい私に泥水で遊べというの!? 一体、私が何のためにここに来たと思ってるのよ!!」 「…え。妹に会いに、…?」「…じゃあ、ないの?」 アマリリスの剣幕に金と銀の王子はタジタジになり、場は一気に静まり返った。 「私はねえ、私は、アヤメの、…っ!」 惨めったらしさを笑いに来たのよ!! と、ぶちまけそうになって、白けた顔のばあやと目が合い、アマリリスは慌てて口をつぐんだ。しまった。妹想いの優しい姉で通しているのに、こんなところで本性を丸出しにしたら今まで築き上げた栄光が台無しだわ。 「そ、…そうですわっ! 私たちはアヤメの旦那様を見に来たのよ。ね、お姉様? 大事な妹の旦那様ですもの。どんな方なのか、姉である私たちが見定めてあげなくちゃ。ほら、私たちってとっても妹想いな姉でしょう?」 姉の窮地を見て取ったアネモネがとっさに機転を利かせた。彼女たちは一心同体なのだ。 しかも、とっさに閃いたにしてはナイスアシストだっただけでなく、事態の核心を突いている。 そうだ。姿が見えないが、件の旦那はどうした!? 蛙獣人とは比べ物にならない、死にたくなるほど醜い怪物という噂じゃあないの! 王と王妃をはじめ、蛙国民は皆一様に気まずそうに表情を曇らせた。中でもアヤメが悲しそうに目を伏せたのを見て、姉姫たちは、内心派手にガッツポーズを決めた。 やった、勝った! 人前に出せないほど醜い王太子と結婚させられたアヤメは、やっぱり不幸のどん底に沈んでいるのよ。そうよ、そうでなくっちゃ!! アヤメは昨夜、また一緒に眠ってくれた優しいガマニエルの言葉を思い出していた。 『アヤメ、すまない。俺はお前の姉たちには会えない。どうしても会えない。許してくれ』 ガマニエルはアヤメを腕に抱いてそっと髪を撫でてくれた。 旦那様、とっても悲しそうな顔をされていましたわ、… 「ガマニエル王太子は体調がすぐれず、離れで静養しておるのです」 「面会を辞しておりますこと、お詫び申し上げますわ」 王と王妃がありふれた口上を並べるのを聞いて、アマリリスとアネモネはほくそ笑んだ。 何としてでもその醜い面構えを暴いて、不幸なアヤメを嘲笑ってやるわ! 彼女たちは言葉に出さずとも以心伝心、ぴったりと通じ合っているのだった。
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