gama7.旅は道連れ世は情け

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「旦那様。雪見露天風呂、すごく気持ちよかったです」 露天風呂を堪能したらしいアヤメが目を輝かせながら帰ってきた。 「雪が光ってキラキラしてるし、空にはお星さまがたくさん見えるし。お湯はしっとりしててあったまるし」 頬を上気させて嬉しそうに話すアヤメが可愛い。キラキラしているのはアヤメの方だ。 ガマニエルも露天風呂に入ったが温まったらさっさと出てきてしまった。アヤメはばあやとお湯を堪能してから湯上り処でホットチョコレートなどを楽しんできたらしい。甘くて美味しかったと蕩けそうな笑顔で言う。見ているこっちまで甘くなる。 「今日もここまで連れてきて下さってありがとうございました」 新婚旅行なんだから連れてくるのは当り前じゃないか、と言いかけて、違うわ、ドーデモードに会いに行くんだったわ、と思い直した。  「いや、お湯を楽しめて良かったな」 つられて口角を上げたまま相槌を打つと、アヤメがはにかみながら控えめに近寄ってきた。 「あの、旦那様。お疲れですよね? できれば、マッサージなど、…させていただきたいのですが」 マッサージ!? ガマニエルの中で急速に思考力が弾けた。 マッサージとは、主に手を使ってアプローチし、血流の改善などをうながすという、あれ、だよな。 つまりは。アヤメが俺に触ると。アヤメが俺の肌に直接触ると、…!? おもわず喉を鳴らしてしまった。顔も赤くなっている自覚がある。が、傍目に変化はなく、アヤメも勿論気づいていない。 「…ダメですか?」 「ダメ、…」 なわけがあるかっ どちらかと言えば身体中撫でまわしたいっ と、急に本音をぶちまけそうになって、落ち着け俺、と自分を諫める。 「…ではない」 心なしか声が小さくなってしまったが、アヤメは嬉しそうに寄って来て、 「では、失礼します」 ガマニエルの手を取った。 手、…っ!? アヤメの小さな手が二倍以上はあるガマニエルの手を柔らかく包んでゆっくりほぐし始める。 あ、…手。手、…ね。 いや、決して俺は落ち込んでいるわけではない。 と、誰に対するのか分からない言い訳を胸の内でつぶやいて、しかし、次第に手は決して侮れないということに気づく。指の間を行き来するアヤメの小さな指はくすぐったく、関節の間を揉み解す力加減は快感で、徐々に触れ合う肌と肌が熱を帯びて、滑らかに辿られる指先の感触がたまらない。 腰の辺りから快感の波が立ち昇って来て声を上げてしまいそうになる。心地よさに神経が緩み、全てをアヤメにゆだねそうになったところに、 「では、おみ足を」 抵抗する間もなく、跪いたアヤメに足を取られ、恭しく触られて微かに声を上げてしまった。 なんだこの、奉仕してるアヤメを見る図、みたいなのは。 心臓が高速で回転するし、不埒な考えが巡り、余計なところに力が入る。 そんな。そん、… 足の指一本一本にアヤメの小さな手が這う。包まれて、ほぐされて、撫でられる。どこから手に入れてきたのか滑らかなマッサージオイルを足され、絶妙に滑らかに肌が擦れて熱を持つ。アヤメが触れるところから立ち上がった熱が腰の辺りに集まって、別のところも立ち上がりそうになる。 ヤバい。快感がヤバい。 もはや快感に爆発しそうになっているガマニエルを、下から見上げてアヤメが無邪気に聞いてくる。 「旦那様。気持ちイイですか?」 いや、お前。俺を殺す気か。上目遣いとか無理だって! 「…うん」 ガマニエルは大陸でも一二を争う戦闘能力と身体機能に長けているが、天然無自覚な嫁の攻撃には為す術もなかった。アヤメの快感と苦悶の合わせ技ブレンドのようなマッサージに悶え死にそうになりながら、ようやく終わりを告げられ、 「今夜も。ご一緒に寝ていただけますか」 「…ああ」 密着感が半端ないシュラフにアヤメと二人で潜り込んで、健やかに眠りに落ちたアヤメを腕に、ガマニエルは、ルート暗唱を繰り返すしかなかった。 √6=2.4494897…、 √7=2.6457513… アヤメに手を握られてしまった。図らずも俺はアヤメとの仲を進展させてしまったわけだが。この状態で、一体どこまで進むことを許されるんだろうか。寝息を立てているアヤメの髪をそっと撫でる。 √8=2.828427…、 √10=3.162277… アヤメが俺との結婚を喜べるように早く元の姿に戻りたいな。 ガマニエルにとってドーデモードの呪いを解くことは蛙国と国民を救うためであったが、アヤメのためにもそれを願うようになっていた。 アヤメの体温を感じながら、冷めやらない熱を抱き、それでも少しうとうとし始めた頃、妙な冷え込みを感じた。 寒い。…アヤメ? 視線を下げ、腕の中のアヤメを見てぎょっとした。 凍っている!?  「アヤメっ!」 恐怖に起き上ろうとしたが、自分も動けず、声も出せないことを知る。 ガマニエル自身も薄い氷の膜に覆われて凍り付いていたのだ。 「うふふふふ、ガマニエル様。本当にようこそお越しくださいましたわ」 謀ったようなタイミングで、真っ白な女人たちが現れた。この旅館で世話をしてくれた白いドレスを着た女性たちだが、先ほど見た時よりもずっと白さが増し、目だけが青白い光を放って浮かび上がっていた。くすくす笑いながらガマニエルの寝ているシュラフを取り囲む。ボウっと浮かぶように立って妙に赤々とした口を歪ませている。 この宿は。 雪女たちの住まいだったのか! 「うふふふ、私たち、強い男性の精気が大好物なんですの」 「ガマニエル様。最高ですわ」 四方八方からシュラフの中に手が伸び、健やかに眠るアヤメはそのまま床に転がされ、ガマニエルだけが引きずり出された。 「うふふふふ、いただきます、ガマニエル様」 雪女たちの冷気をひしひしと感じ、アヤメのマッサージとは180度違う自分勝手に弄られる冷たい手の感触に、ガマニエルは必死でこの窮地を脱する方法を勘案するが、しっかりと張り巡らされた氷の膜に身動きが取れなくなっていた。
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