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顔を見せてごらん
加賀谷さんは私の躯と髪を洗ってくれた。私も彼にしてあげたけれど、手に力が入らなくてしっかり洗うことはできなかった。
ベッドに入っても、気持ちは昂ぶっていた。
恍惚とした余韻が躯に残っていて、火照りが冷めない。服なんか着ていられなかった。眼鏡もかけていない。
ほとんど話さず、ふたりで寝そべった。
私は腕枕をされている。
加賀谷さんの腕はとても硬い。しっかりとした筋肉があった。
私はシーツを撫でた。私の部屋と同じ白なのに、こっちの方がさらさらしている。たったそれだけの違いなのに、加賀谷さんの寝室にいると実感した。
加賀谷さんは、私の背中をずっとさすっている。
目が合うと、穏やかなまなざしで見つめ返してくる。
「……ごめんなさい」
私は目を逸らして、毛布を頭まで被った。加賀谷さんの顔を見ると、先ほどの行為を思い出す。今も躯をつなげているような感じがした。
「顔を見せてごらん、晴之」
「いやです」
「恥ずかしがってくれるならうれしいよ。満足してくれたっていうことだからさ」
「加賀谷さん。お願いだから、それ以上言わないで」
初めての私にとっては、充分すぎるほどの激しさだった。
加賀谷さんは、毛布ごと私を抱きしめてくる。
「なんでまた名字で呼ぶんだ?」
「さっきのことを思い出すからです」
言おうとすれば、喉が渇いて頬が熱くなって、躯が発火したようになる。
「ほら、言ってごらん。寿さんって。言わないといたずらするよ」
毛布の上から、加賀谷さんは私の躯をまさぐった。
「もう、何にも怖くありません」
「強がっていると狼に食べられるぞ、ほら!」
いきなり、毛布をめくられた。
悲鳴を上げて私は逃げた。すぐに捕まえられる。
「意地悪な恋人を持ったのは不運だな」
内腿、脇腹を撫でられた。笑いながら、私は悶えた。
「やめて、くすぐったい、ああ」
「もう、おまえの感じるところは全部わかっているんだよ」
「やめて、あ……んっ」
「色っぽい声出しやがって。晴之の声ってそそるなあ」
どちらかともなく息を吐いた。見つめ合うだけで、互いに笑みが零れた。
「大人になっちゃったなあ、晴之」
しっかりと私を抱きしめ、加賀谷さんはささやいた。
「はい。……加賀谷さんの言った通りでした」
加賀谷さんの手を取ると、私は自分の唇に押し当てた。
「昨日よりも、加賀谷さんの手はあったかいです。こうするだけで、あなたがしてくれたことをみんな思い出せるんです」
この手がしてくれたことを、私はずっと忘れない。
「俺は、ここで晴之のことを思い出すだろうな」
加賀谷さんは、私の手を掴むと自分の股間へ導いた。
「触ってごらん。怖くないだろ」
「うん」
私は加賀谷さんの内腿を撫でた。あえて肝心なところには指を伸ばさなかった。
「こっちだって」
加賀谷さんは私の手を引っ張った。
「ひと仕事終えたんだから、ここを誉めてくれないか」
「ええ、何言っているんですか!」
私は吹き出した。どうして性的なことなのに、加賀谷さんはこんなにおおらかなんだろう。
「晴之が誉めてくれたら、俺はもっとがんばれるからさ」
おかしくて笑っていると、愛しさで心が満たされていく。
抱かれたから、新しい加賀谷さんの魅力を見つけられた。
「えっと……お疲れ様でした。気持ちよかったです」
加賀谷さんの中心に向かってささやいた。労うようにそっと撫でた。
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