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 初冬のか細い光が窓から差していた。二階のリビングのソファーで寝ていた僕は、瞼ごしにそれを感じた。 「眠い。――肩が重い。」 何かの夢を見たようだった。目を開ける直前まで覚えていたが、開けた瞬間に、ヘイケボタルの冷光のように消えた。然し、僕の脳にはルシフェリンは無く、二度とその映像は戻ってこなかった。 「何だっけ……」 いくら探しても、やはりダメみたいだった。  体を起こして、ふと仰いでみると、ミツメが空中で気持ちよさそうに寝ていた。 「はー。――寒い。」 僕は大きくため息をついた。近くにあったパーカを上から着て、それからテレビを点けた。  テレビから流れるのは朝のニュース。 「朝から元気がいいな。」 キャスターの声とバックの音楽が頭に響いた。朝が得意でない僕には、元気過ぎた。  だからテレビを消した……。  目をこすりながら、僕は机にある読み終わった大きな哲学の本を開いた。適当なページを開いた。  そこには「ヘーゲル」が紹介されていた。「止揚(アウフヘーベン)」、「定立(テーゼ)」、「反定立(アンチテーゼ)」、「綜合(ジンテーゼ)」。そんな言葉たちが目に入ってきた。事物には必ずその否定があり、事物、要するにテーゼを、否定、要するにアンチテーゼによって、さらなる高次元のものを生み出す。ただし否定された要素は捨てられず、新しい高次元の段階に組み込まれる。  まとめると、そんなようなことが書いてあった。然し、はっきりとは分からず、スマホで調べてみた。これを調べるのはおそらく二回目だと思う。というもの最初に読んだ時に、調べたような気がしたからだ。  ネットで調べてみるが――分かったような分らないような、言っていることがサイトによって若干異なるため、どれが正しいのか判別が難しかった。より簡単に言ってしまえば、ある意見とその反対の意見をぶつけて、いい感じの意見を出す、という感じか?  然し僕は納得がいかず、さらに調べ続けた。  土曜の朝六時一三分。肌寒い部屋にひとり、早く起き過ぎた男は、スマホと格闘していた。新聞配達のバイクが通り過ぎた音がして、社会を感じた。
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