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そんな風に僕達が盛り上がっている横で、一人蚊帳の外のまつむはまだ古文を必死に写していた。
「終わる?」
そう啓仁が聞いた。
「これは終わりそう。でも、まだ数学もやらないかん?」
黒板の方を見ると、今日の数学は午後からだった。
「午後なら、間に合うか。――でも今日の問題結構難しかったから、不味いんじゃない?」
そう僕が一昨日手こずったことを思い出しながら言うと、啓仁が直ぐににやにやしながら言葉を挟んだ。
「どうせ、写すから関係ないって。」
「たしかに、そうやな。」
僕もそれに続いて笑った。
クラスの雰囲気も段々といつもの調子へと戻りつつあった。遅くに登校したやつが、またセンターの話題をクラスに入れ込んでも、既にほとんど汗色となった液体の中では、溶けて消えてしまうばかりであった。だから僕の調子も戻ってきた。
啓仁と一緒にしばらくいつものようにまつむにちょっかいをかけていた。
然しここで突然ミツメが
「少し下を見て」
と警告した。
僕は何だろうと思い、視線を下げると、――そこには薄ら悲しげなまつむの表情があった。
僕はやりすぎたかと思い、すかさず話題を今日の体育の長距離走の方へと変えた。「長距離走嫌やわ」とか「辛いだけやん」とか、「先生立っとるだけやん」とか、矛先を明後日の方向に変えた。
そうしている間に、無表情のチャイムが、
「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」
と鳴った。
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