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――眼鏡を掛けてノートを開いて準備万端の僕だったが、一限の最初は集中できなかった。特に古文の先生が予習チェックをするために、教室を回っている時は、先生が横を通ったことすら気づかないくらいに、心ここにあらずだった。
まつむのあの表情――。まつむは基本的ににこにこしているやつだ。こっちがどれだけいじろうが、笑って返して、さらに周りを爆笑させる。そのまつむのあんな表情を見たのは初めてかもしれない。それくらいの、衝撃であった。唇をぎゅっと締め、瞼をとろんとさせ、黒目はどこか遠くをみているようなあの表情。それが何度も何度も頭の中で、リピートされた。
「言い過ぎたかな?」
僕は強く反省した。然し、どうにも納得がいかなかった。これまでのことを考えたら、あれくらいのいじりで凹むようなやつではなかった。
僕は机に左肘を付き、その左手の掌で口を覆いながら、まつむの表情の原因を必死に推測してみた。
最近何か嫌なことでもあったのか。部活か? もしかして、田中さんと別れたか? それとも勉強が出来なさすぎる自分に嫌気がさしたか……。
然しどんなけ考えてもただの推測で、着地点は無く、そのままこの問題は宙に浮いて、どこかへ飛んでしまった――。
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