ⅢーⅠ

6/16
前へ
/155ページ
次へ
 久しぶりに僕は稲垣と遊ぶ機会が出来た。今回はふたりで本屋に行くことになった。その本屋というのは実は最近オープンしたところで、カフェが併設されており、本を読みながら、然も何か注文すれば買わなくても読んでいいという、何とも読書家にとってありがたい本屋だった。こういった本屋のことを、ブックカフェというらしい。テレビかネットで東京にはそういった場所がいくつかあることを知っていたが、それがようやく、わが町までやってきたのだ。この情報は稲垣が手に入れ、新年最初の学校の日から計画していた。それがとうとう実行されることになった。  その日は快晴であった。集合場所は位置的に僕の家で、午後三時に稲垣が来る約束だった。  僕はまだ葉につく霜がきらきらする朝から、楽しみでそわそわしていた。無駄に本棚から、以前読んだ古本なんかを取り出して、テキトウにページを開いたりした。するととあるページに、小さな枯葉が挟まっていた。僕はそれを指でつまんで、窓から差し込む陽光に当てた。今日はなんだかいいことがありそうだ。そう信じた。  朝に凍っていた地面も、昼には元通りになっていた。僕と稲垣はふたりともジャンパーを着て、きんきんに冷えた空気の中を自転車で走った。稲垣は黒いニット帽で耳を覆っていたが、僕は手袋しか持ってこなかったため、耳が常に痛かった。そういえば、三日と四日も何も対策をせずに後悔したことを思い出して、自分がいかに愚かでだらしないかを悟った。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加