ⅢーⅠ

7/16
前へ
/155ページ
次へ
 白い息を吹かし進んだ僕等は、小山の近くにあるカフェブックへとうとうたどり着いた。地方の小山の近くというと、立地が悪いように感じるが、ちょっと行けば大通りがあり、僕達が行った日もお客さんの姿が店内にちらほらあった。  僕達は店の傍に自転車を止め、さっそく中へ入ろうと思った。然し、ガラス戸を前にしてふたりして止まった。味のある木造の床、窓際の観葉植物、天井からさがった丸い照明、カウンターに置かれた人形やアーティスティックなオブジェ、テーブルに刺さった落ち着いた柔らかい色のメニュー表……。  お洒落を初めて見た僕等は辟易した。ガラスに映った汚い自分の顔に驚いた。  さらに追い打ちをかけるように、お客さんもまた、お洒落な人が多かった。パステルカラーのスカートを履いた清楚なお姉さんや、古着を着た芸術家風のお兄さん、逆に柄がないスマートな実業家風のおじさん――、お婆ちゃんまでも赤い中折れ帽を傍に置いていた。  なんだかこうなってくると、奥の方にいる普通のおじちゃんもお洒落に見えてきて、芋くさい僕等が入っていいものなのか戸惑った。  そんな風にまごついていると、中からエプロンを掛けた綺麗な女性が出てきて、 「いらっしゃい。」 とにっこり笑って声をかけた。僕達は恥ずかしそうに下を向きながら、その女性店員に促されるままに店内へと入った。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加