ⅢーⅠ

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 学校付近まで来て、驚いた。学校周辺は雪の量が明らかに違っていた。山の前にあるからだろうろうか。学校付近の道では、手で押して進まなければいけない道が幾つもあった。然しそれでも依然として自転車に乗って進む猛者も何人かいた。僕の体力と脚力では、怪我するばかりで、揚々と進むやつらを無視して、しっかりと歩いた。  学校に面する道まで来ると、車や自転車通学の先人達の跡によって、乗って進むことができた。グランドが見えるところまで来たとき、野球部が何か作業しているのが分かった。みんな上に掛かるネットを見上げて、お互いに指示を出し合っていた。白い中に、色とりどりの手袋やニット帽やネックウォーマーが動いていた。どれも白い息を吹かしていた。その光景にただ、テスト週間だというのに大変だなと、他人事のように思いながら僕は通り過ぎた。   教室に着くと、やはりまつむの姿は無く、カバンだけが机の上に置いてあった。啓仁が珍しく僕より先に来ていた。啓仁のところへ寄って、「雪、すごいね」とか「野球部何しとるんやろ」などという話をしばらくしていると、まつむが疲れた顔をして教室に入ってきた。僕は直ぐに「野球部何しとったの?」と聞いた。 「ネットを降ろしっとった。雪で壊れんように。」 まつむはただそれだけ言って、カバンに顔をうずめながら、そのまま寝てしまった。テスト前一週間は部活がなく、宿題もあまり出されかったため、まつむは平気で睡眠に入った。  まつむは前回の中間テストで、英語を落とした。補習は放課後に行われ、毎週その日は部活に遅れて参加した。しかも野球部では試験を落としたら、補習のその日は百本ダッシュをすることになっていた。そのため毎週補習の日は笑いながら、「憂鬱だー。憂鬱だー」と嘆いていた。  だから昼食時に一応「今回の期末テスト大丈夫?」と聞いた。まつむは笑いながら「死ぬ気で勉強しなきゃいかんわー」と頭を抑えた。それに啓仁が「いつもそれ言っとるやん」とツッコンだ。 「あの子はどうなの? あの前来たちっちゃい子。」 「前来たちっちゃい子?」 「あのー、来てたじゃん。一緒に残って勉強したとき。」 「あー、ちーざ?」 「そうそう。」 「ちーざも同じくらいやばいと思う。」 まつむは自分と同類を思い浮かべて安心したのか、強く顔に皺を寄せて笑った。 「そうなんや。でも、お前もあの子も絶対やればできると思うやけどな。」 僕が発したその希望の言葉にまつむがどう返そうか迷っていると、横から啓仁が辛辣に、 「それをやらないということは、それくらいということだろう」 と放った。  僕は先日のことを思い出して直ぐにまつむの顔を見たが、まつむは平気な顔で「それを言われちゃーねー」といつもの調子でまた笑った――。
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