ⅢーⅠ

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 土曜日の夕方、本屋さんには小さな子供を連れた家族が多く、児童書コーナーからキッズの活気が、こちらの方まで漏れていた。また大学生やおじさんおばさんが、真剣な表情で本に向き合っている姿が、サバンナのように発見できた。  僕は選んだ本をるんるんで手に抱え、文庫本の方もちょっと覗いてみようと思い、そっちの棚へ行こうとした。然し、ここでミツメが突然、 「文具コーナーの方へ行って」 と警告した。僕は何事かと思うと同時に、店内のBGMのリズムにのった気持ちが挫かれたことに、多少イラつきながら、文具コーナーへとつま先を向けた。  文具は本と同じく広い本屋の端に、表の通路から奥に向かって並んでいた。文具の棚は二列になっていて、どちらとも半分くらいまで奥に伸びていた。さらに奥半分は画集やら音楽系の棚が並んでいた。  僕が直ぐにシャープペンシルの芯がある方へ行ことすると、ミツメが 「奥から回って」 とまた指示を出してきた。僕は仕方なしに奥側、画集やら音楽系の本が並ぶ方から文具コーナーへ回った。  よく分からないまま、わざわざ遠回りで一番端の棚の列へ入ろつとすると、 「其処で待って」 とまたまた指示がでた。ミツメがこんなに細かく警告することはあまりなかったので、僕は不思議な感じで、文具へと続く棚列の一番奥のところで待った。 「そのまま本を読んでいる振りをして。それから向こうにいる高校生に、バレないように、其の高校生を観察して。」 僕は状況が理解できなくて、小声で「はあ、意味わからんて」と返した。然しミツメは黙ったまま真剣な表情だったため、仕方なしに適当な本を一冊とって(開いたページにはQueen&David Bowieの『Under Pressure』のことが書かれていた)、横目で向こうにいる高校生を確認した。  僕は目がそこまでよくないため、はっきりとは見えなかったが、そこにいたのは確かに同じ高校の野球部のやつだった。名前は分からなかったが、見たことのある横顔ではあった。そいつはどうやら僕と同じく文具を買いにきたらしく、文具の棚を漁っていた。
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