ⅢーⅠ

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 テストが始まり、そして終わった。終わってみると意外とあっけなく感じるのは、いつものことだった。僕はその週、結局先生にあのことを伝えなかった。ミツメはしつこく先生に伝えるよう警告したが、「テストだから」とか、「テストが終わって早く帰りたい」とか言って、とうとう金曜日の太陽が傾いた。  僕がどうしてここまでミツメの警告を拒んだかというと、ミツメにイライラしていたこともあったが、それ以上に利用されているんじゃないかという疑いがあったからだった。ミツメの背後に何かいるのではないかと思い始めた時から、自分はその何かに利用されていて、僕の未来に悪いことが起きないように警告すると言いながら、実は着々と何か計画を進めているような気がした。  だから僕はそれに抗いきって、こうして何もアクションを起こさず、いや何もしないというアクションを続けて、今、金曜日の夕方を自転車に乗って平然と風を切っていた。  畑道に出ると、ぽっかり穴が開いたような夕日が、次元の向こう側の世界からこちらに光を向けていた。なんだかひょっこりと、アニメチックな黒い悪魔が顔を出してきそうな不気味さがあった。自転車のカゴは、でこぼこの畑道に、相変わらず「ガンカン」と音を鳴らしていた――。  自分の部屋に入ると案の定、ミツメは何か言ってくるかと思いきや、特に何も言わず黙っていた。僕はそれに首を傾げながら、僕も一緒に何も無かったように、スマホで音楽を聴きはじめた。その日はそのまま二階からの母さんの「ごはんやお」という声が聞こえるまで、スマホで音楽を聴いたり、動画を見たりして、ひとりでリズムにのったり、微笑んだり、笑ったりした。――外は次第に暗くなっていった。
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