Prunus avium

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それでは娘はどうなったのか、というと娘は無事だった。というのも娘の身体は向日葵たちより頑丈だったからだ。その白くて今にも消えてしまいそうな身体でも、悪魔の爪の如き激風には耐えたようだ。次第に雨が降り始めた。今までにないほどの大量の雨だ。雨は突き上がって固まった土を緩くし、槍の土はどんどん流れ落ちていった。そしてとうとう全ての土が元いた地面に戻っていった。娘の傷も例の雨粒のおかげでみるみる治っていった。そしてついに娘は目を覚ました。やっと覚醒状態に戻った。娘は重い腰を上げ立ち上がり、空を見上げた。雨粒ひとつひとつが自分自身に向かって落ちてくるのが分かった。それからその目線を今度は下へとゆっくり下げ、自分の胸を見た。そこには突き抜かれてできた傷跡が縦にのびていた。娘はあどけない手を胸その傷跡に当てさすった。すると衣服が修復し、傷跡が見えなくなった。そこにさらにダイヤ型の刺繍が施され、胸の中心だけが少し分厚くなった服が完成した。娘はそれを確認して、一息ついて、笑った。そして再び前を見て走り出した。そのころにはもう娘の周りを渦巻く砂嵐も消えていた。グースは疲れ果てて眠り、その他の四人の体も元に戻った。マネは片手を口元に持っていき、深く考えはじめた――
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