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2日目
「じゃあ島田くん、今日もよろしくね。」
「今日は昨日よりも一気に人が多くなるからな、頑張れよ」
オーナー夫妻が言っていた通り二日目となる今日は昨日よりもかなり多くの人が午前中から海に訪れてきた。昼頃になると席はほぼ満席となり、次々と注文がくるような状態になった。
そしてお昼のピークが過ぎ、座って休憩していると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「あつーい、かき氷食べよー」
パステルピンクをまとったスタイルのいい体に金髪というリーダー格の彼女に続いて二人が店に入ってきた。遊び疲れた様子の彼女らは座る場所を決めるために視線を巡らせていた。
そして声の主、西村沙織と目があってしまった。
「え、島田じゃん」
嫌悪感を孕んだその声に応じるように他の2人、竹花美咲と成本翔も俺を見る。
「うわ、ほんとだ。島田じゃん、何でいるの」
パステルブルーの水着を着た竹花美咲が俺を避けるように背中を向け、長い黒髪が揺れる。
「ここでバイトをしてます。」
「は?気安く話しかけんなよ、まじでうざい」
若干萎縮しつつも問いに答えると西村沙織は機嫌を損ねたようにそう言った。そして顔をしかめたかと思えば今度は何か思いついたように口角をあげる。
「ねぇ、私たち外にいるからかき氷三つ持ってきてよ」
いつものように睨みを利かせて彼女はそう言ってきた。
「うわ、バイト先でもパシリかよ」
成本が嘲笑うように言い三人は浜辺へと出ていった。
俺はオーダーをする前にトイレの外から見えなくなる位置まで行くとそこには竹花美咲がいた。
「で、どうなの」
彼女は俺の姿を捉えると目線を外したまま感情のこもっていない声で聞いてきた。
「ビーチの左の遊泳区域ギリギリのところ。少し海が荒れると流れができてラインの外に流される。明日の午後から台風が近づいてきて天気が荒れそうだよ。」
そういうと彼女は口元に笑みを浮かべて他の2人のもとへ戻っていった。
三人分のかき氷を持って浜辺へ行くと彼女らは海の家を出てすぐのところ、人があまりいない場所にいた。
「遅い。役立たず。」
西村沙織はそう言うと手渡したばかりの赤色のかき氷を俺の顔面にぶつけてきた。
「これはお礼よ。じゃあね、海で溺れてくれて二度とその顔を見ないことを望むわ」
そう言うと三人は笑って去っていった。
顔についたかき氷は手で拭わずとも熱で溶けていったがシロップの匂いが自然と落ちることはなかった。
砂落とし用の水で顔を洗い流して海の家の中に戻ると両手にかき氷を持った真夏がこちらへやってきた。
「あの人たちお兄さんのお友達ですか」
冷やかすような笑顔を浮かべつつイチゴシロップのかかった方を渡してくる。
「こっちは優しいオトモダチに味合わせてもらったからもう一方の方がいいな」
自虐を込めつつそう言うと彼女は素直に交換してくれた。
「お兄さん嫌われてますねあの人たちに。しかもただ嫌われているというわけでなくイジメですか。少し説明してくれませんか。」
彼女の何もかも晒け出せそうな雰囲気と自己開示の欲求が相まって自然と言葉が出てしまう。
「別に理由なんてないと思う。ただあいつ、西村沙織の気まぐれだよ。見ての通りのリーダー格だからクラスであいつの矛先が向いたが最後、全体の敵になる。」
自然と拳に力が入る。
「それで全く青春できないどころか学校が楽しくないと、そんなところですか。ちなみになんであの人たちは3人何ですか?」
「なんで、とは?」
「沙織って人と成本って人は多分付き合ってますよね、だったら美咲って人は邪魔なんじゃないですか?」
驚いた。
なにも説明していないのに彼女は観察しただけで人間関係まで見抜いてしまった。
「すごいな、そこまでわかるのか」
素直に褒めると彼女は照れたように笑った。
「でもあんまり他人のことに首突っ込まない方がいいぞ」
そう忠告すると半分溶けたかき氷を持って席を立った。
「むしろ竹花美咲にとって西村沙織が邪魔なんだよ」
俺はかき氷によって冷やされた口で真夏に聞こえるか聞こえないかという声量でそう言って彼女のもとを離れた。
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