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「由紀子…」 1人の女性の名前を呟く。 大学卒業後、サッカー選手としてデビューした俺は過労がたたり、アキレス腱断裂の大怪我をした。 医者には現役復帰は難しいと告げられた。 俺は心底現実に絶望し、家に引きこもる生活が何年か続いた。 しかし、その間も彼女である由紀子は俺のことを優しく支え続けてくれた。 そうした日々の中で立ち直っていった俺は就職活動を始めた。 そして先日、ついにとあるメーカーから内定をもらうことができたのだ。 今日は内定祝いとして高層レストランでディナーを一緒に取る予定だった。でも、本当は…。 ジャケットの内ポケットに手を入れる。 取り出した小さな黒い箱を開けると、中央には煌々と輝くダイヤをこしらえた白銀の指輪が納められているーー。 俺はいつここから出られるのだろうか。 もしかして俺はこのまま飢え死にするんじゃ…? 先の見えない恐怖と不安が激しく押し寄せる。 それらを押し殺すかのように膝を抱えてうずくまった。 「…プロポーズの練習、あんなにしたのにな。」 ゆっくりと目をつぶると、意識は闇の中に沈んでいった。
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