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♦︎ パタンとノートパソコンが閉じられた。 声を殺して鼻をすすりあげる音だけが、静寂に包まれていた室内に響く。 「以上が、悠人さんがこれまで見てきた夢になります。」 悠人の両親と由紀子は頭を上げると、パソコンに繋がれているケーブルを辿り、後ろを振り返る。 視線の先にはケーブルを頭に繋がれ、ベッドに静かに横たわる悠人の姿があった。 「植物状態の人間の延命治療はこのように、患者にも苦しみが伴うことが近年の研究の進歩で明らかになりました。 そのことを踏まえた上で彼の延命治療を継続するかどうか、ご検討いただければと思います。」 悠人の主治医は3人を見ながら、そう言った。 悠人が由紀子とディナーを予定していた日、彼は池袋の人ごみの中で無差別殺傷事件に巻き込まれ、植物状態になった。 意識が戻る可能性は限りなくゼロに近いという診断を受けた。 しかし、一縷の希望にかけ、悠人の両親は延命治療を主治医に依頼した。 それから3年の時が経ったが、彼が意識を取り戻すことはなかった。 そうした中ある日。悠人の主治医から一本の連絡が入った。 是非見てもらいたい映像がある。できれば由紀子さんも一緒に、と。 そして今日、2人は由紀子を連れて病院までやってきたのだった。
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